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会社概要などに記載されている「資本金」。
みなさんは、この資本金がどういった意味・役割を持っているかをご存知ですか?
また、資本金額は多ければ多い方が良い会社、という意味になるのでしょうか?
この記事では、
- 資本金の概要
- 会社設立に必要な資本金の金額や目安
- 資本金を決定する際に気をつけるべき4つのポイント
- 資本金が増減する仕組み
などについて解説していきます。
資本金とは?
株式会社を設立しようとするのであれば、必要不可欠なのが「資本金」です。
まずはこの資本金が表す意味や、基本的な関連用語などを解説していきます。
資本金は会社の余力・規模を表すお金
資本金を見れば、会社の体力がどの程度あるのかを知ることができます。
資本金は貸借対照表で「資本の部」に属しており、資産の部から負債の部を引いた残りの金額が資本の部の総額(=純資産)です。
純資産は誰かに返済する必要がありません。そのため、この金額が大きければ大きいほど会社に余力があるということになります。
また、会社法上、設立時の資本金は株主からの払込が完了した金額を出資金とします。例えば、1株当たり100円で1万株発行し、そのすべての払込が完了されれば資本金は100円×1万株=100万円が資本金です。
このことからも、設立時の出資が多ければ多いほど資本金が大きくなることがわかります。そのため、資本金の大きい会社は基本的に規模も大きいことがほとんどです。
資本金は「0円」でも会社は設立できる。ただし、設立費用は必要
2006年の会社法の改正により、資本金が0円でも開業ができるようになりました。
しかし、この「0円」というものには意味があります。まずは以下の計算式を参考にしてみてください。
- 出資額(金銭出資で払込を受けた額+現物出資の時価評価額)-設立費用=会社設立時の資本金
これを見ると、出資額というのがあるので結局出資金が必要になるのではないか、と思ってしまいますが、ポイントはそのあとの設立費用です。
この設立費用には、定款印紙代や登録免許税など少なくとも24万円の費用が掛かります。この設立費用が出資額より多くなる場合、最終的に会社設立時の資本金がマイナスになります。
これが結果的に「資本金が0円でも会社は開業できる」という真相です。決して「会社は0円で設立できる」というわけではありません。
資本剰余金・資本準備金は「いざというときのためのお金」
貸借対照表の「資産の部」には、資本金の他に「資本剰余金」や「資本準備金」という記載があります。
「資本剰余金」とは「会社設立の際に用意した、資本金以外のお金」です。
また「資本準備金」は「資本剰余金」の一部であり、その中でも突発的な支払いの際などに利用されるお金です。この資本準備金は場合によっては資本金に割り振ることができ、株主が資本金として払ったお金の1/2までは資本準備金として設定できます。
個人事業主の場合は「元入金」
個人事業主に資本金は存在しませんが、事業の持久力や規模を表すものとして「元入金」があります。
個人で事業を始める際の、開設のための資金や準備金が元入金に集約されます。
ただし、資本金と大きく違うのは、
- 今期の元入金+所得+事業主借‐事業主貸=翌期の元入金
となり、毎年金額が変動するところです。また、資本金と違ってマイナスになることも珍しくありません。
会社設立に必要な資本金の金額の目安は?
それでは、会社設立に必要な資本金はいくらになるのでしょうか。
結論から言ってしまえば「必ずこの金額で」というルールはありません。
ただ、ある程度の目安は存在します。ここからは、資本金の金額が一概には決められない背景と、目安の計算方法について解説していきます。
最低資本金制度の撤廃で資本金は自由に決められるようになった
なぜ資本金の金額は一概に決められないのでしょうか?
大きな理由としてまず挙げられるのが、最低資本金制度の撤廃です。
この制度が撤廃されるまでは、株式会社であれば最低資本金が1,000万円、有限会社であれば300万円が最低資本金でした。2005年にこの制度が撤廃されたため、新設で会社を設立しやすくなると同時に、資本金の明確な基準が無くなったのです。
また、有限会社が廃止され株式会社に統一されたことも大きな理由のひとつと言えるでしょう。
現在も有限会社は「特例有限会社制度」という制度により存続していますが、履歴事項全部証明書では、当時出資額とされていたところが株式数に変更されています。
資本金の目安はいくら?計算式に当てはめてみよう
資本金について、明確に「○○万円がいい」と断言することはできません。しかし、資本金には目安の金額というものがあります。資本金の金額設定に迷った際は、以下の計算式や目安を活用してみましょう。
なお、建設業や派遣業など特定の業種では、営業認可のために一定額以上の資本金が必要になる場合もあります。会社設立の計画を立てる前に、該当する業種の設立条件も調べておきましょう。
1.(初期費用+見込売上3か月分)×1/3
例えば、
- 初期費用(設備の準備やどこかオフィスを借るための保証金など)…600万円
- 毎月の売上…100万円
と仮定します。この場合だと、
- (600万円+100万円×3)×1/3=300万円
が資本金の目安ということになります。
2.初期費用+半年分の運転資金
例えば、
- 初期費用(設備の準備やどこかオフィスを借るための保証金など)…600万円
- 毎月の運転資金…50万円
と仮定します。この場合だと、
- 600万円+(50万円×6ヶ月)=900万円
が資本金の目安ということになります。最初の式よりもかなり高額になりますが、これくらいの資本金があると融資を受けなくてもある程度の期間事業を継続できるでしょう。
3.資本金100万円以上
日本政策金融公庫が融資の条件としているのが「資本金100万円以上」です。そのため、これをひとつの目安(下限金額)にするという考え方もあります。
資本金を決定する際に気をつけるべき4つのポイント
資本金の目安を計算する方法はお伝えしましたが、必ずしもその計算通りにすればいいというわけではありません。
ここでは資本金を決定する際に気をつけておくべき3つをポイントをご紹介します。
1.資本金=会社の信用力であると理解しておく
資本金は会社の信用力を表すひとつの指標です。
一概に「大きければ大きいほどいい」とは言えませんが、資本金が大きいということはそれだけ自己資金を調達できているという証明でもあります。これから取引を始めるのか否かという判断を下す時に、一つの判断材料になることには間違いありません。
もちろん、現代社会においては対外的な社会貢献度も判断材料になるものの、あまりにも低く設定しない方が得策でしょう。
2.税負担額を確認しておく
資本金はその額によってふたつの税金の支払額が大きく変わってきます。
1つ目は消費税です。
例えば、資本金1,000万円未満で創業すると、最高2年間の免税期間があります。しかし、1,000万円以上になるとその特典は受けられません。
2つ目は法人住民税です。
会社を設立すると、業績に関わらず廃業しない限り法人住民税を納め続けなければいけません。また、最低限納めなければいけない「均等割」というものが存在します。
こちらも資本金300万円であれば、合計7万円(場所により8万円のところがある)で済むものが、1,000万円超1億円以下の資本金の場合最低限で18万円の納税が必要になります。
このように、資本金が大きい方が信用能力は高いと判断されるからといって、必ず大きい方がいいというわけではありません。
3.数年後を見据えておく
創業時は、目の前の資金がどの程度あるのかに着目しがちで、どうしても将来的なものを見た判断ができないことがあります。
しかし、先ほど紹介した法人住民税や消費税は、税法ですでに決まっていることなので、よほどのことがない限り変わることはありません。
このような「変わらないこと・変わらない出費」から将来的な資金繰りを予測することも大切です。
4.「見せ金」は絶対にしない!現金がないなら「現物出資」を検討すべし
資本金の額を少しでも多くするために、一時的に第三者にお金を借り、いわゆる「見せ金」を作る会社もありますが、これは絶対にやめてください。
発覚すれば二度と融資が受けられなくなるだけでなく、「公正証書原本不実記載罪」に問われる恐れもあります。
現金が用意できない場合は、発起人が所有している車・不動産・会員権・有価証券などを現金に換算し、その金額を資本金に含めることができる「現物出資」を検討しましょう。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
【関連記事】
・徹底解説!資本金の「見せ金」が絶対ダメな理由&銀行に見せ金と誤解されてしまうケースとは?
・創業融資の自己資金が重要なワケと認められるお金の種類
資本金が増減する仕組みについて
資本金は設立時の金額をずっと一定に保つ必要はなく、創業した後に増減させることができます。
では、どのような場合に増減が発生するのでしょうか。
減資
減資とは、資本金の額を減少させることです。
減資は経営状態を改善させたい、それも企業再建という状況に陥っている場合に発生します。減資をすると、社外からは「経営が成り立っていない」と判断されてしまうでしょう。
ただ、減資を行えば繰越欠損金を一時的に解消する方向に導くことができるため、決算書上は改善したかのように見せることができるというメリットもあります。
増資
増資とは、株式を発行して出資金を募り、資本金の額を増加させることです。
銀行から借り入れを行えば返済する必要がありますが、増資で集めたお金は返済する必要はありません。いわゆる資金調達の方法の一つになります。
ただ、出資してもらっているため配当金を出す必要が出てきます。会社法上、配当を出せば資本金の4分の1に到達するまで利益剰余金を積立てなければなりません。
これは会社の財産が社外へ流出することを防ぐ方法にも繋がります。そのため、デメリットは出資者へ配当することとも言えるでしょう。
まとめ
初めて取引を行う際は判断材料が資本金しかないため、どうしてもそこで判断されがちです。
会社を運営していく中で、資本金は増資や減資を行わない限り変わらない額です。毎年利益を上げていても、この資本金には反映されることはありません。
そのため、資本金はとても慎重に決定する必要があるでしょう。
会社を設立する際の資本金はいくらにするのがいいのか迷った際は、この記事で紹介した計算式や3つのポイントをぜひ参考にしてみてください。
【関連記事】
・資本準備金とは?概要や資本準備金のメリット、仕分け例などを解説
・資本剰余金とは?利益剰余金との違い、配当、マイナスになった場合の対策を解説
・会社設立時の資本金の払い込みについて解説します!
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。