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会社設立を立案し、資本金を出資して実際に設立準備に携わる人のことを発起人と呼びます。
中小企業の場合は、会社設立時の社長や役員が発起人を兼ねているケースがほとんどです。
発起人は会社設立に必要な定款づくりにおいても不可欠であるため、会社を設立する際には発起人選びから始めなくてはなりません。
この記事では、
- 発起人の役割と責任
- 発起人の条件
- 発起人を決定するときの注意事項
など、発起人に関連する要点について解説していきます。
発起人とは
発起人とは、会社設立を企画・準備し、定款を作成して署名または記名押印した者のことです。
たとえ会社設立に深く関与していたとしても、定款に発起人として署名していない限り、発起人になることはできません。
ただし、株式募集の文書に会社の設立を賛助し、氏名と併せて記載することを承諾した場合は、類似発起人として発起人と同様の責任を負うこととなります。
発起人の役割
発起人が果たすべき役割は以下のとおりです。
会社の重要事項の決定
商号名や本店所在地、事業目的、資本金額など、会社にとっての重要事項を決定します。
定款の作成
決定した重要事項をもとに、会社のルールとなる定款を作成します。
定款には、発起人全員の署名または記名押印、それと印鑑証明書が必要になります。また、定款を作成したら公証人役場にて認証を受けなければいけません。
【関連】会社設立に必要な定款の作り方と認証手続きを分かりやすく解説
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資本金の出資
定款作成後、発起人全員で出資を行います。
登記前は会社の口座を作れないため、発起人の個人口座に振込、または入金をします。発起人名義以外の口座に入金した場合、資本金の出資と認められないため注意が必要です。
【関連】会社設立の時の「資本金払込み」方法や注意点・通帳の使い方
会社設立の準備
会社設立に必要な開業準備を行います。
事務所の賃貸借契約や備品の購入、通信回線の契約など、開業できるように職場環境を整えます。
会社設立が完了した後は、出資した分の株式を保有するため、必然的に発起人から株主の役割を担うこととなります。
保有している株式数に応じて配当を受け取ることや、会社の重要事項を決める際には議決権を行使することもできます。
発起人の責任
発起人が負うべき責任は以下のとおりです。
会社不成立の場合の責任
会社設立ができなかった場合、会社設立に関するすべての行為と後始末に関しては、発起人が責任を負います。
会社設立に関して支出した費用は、発起人が連帯して負担しなくてはなりません。
損害賠償責任
発起人が会社設立の任務を怠った場合、会社に対して損害賠償責任を負います。
また、任務を怠ったことについて悪意または重大な過失があった場合、第三者に対しても連帯して賠償する責任を負います。
財産価格てん補責任
現物出資をしたときに、その評価額が定款で定めた金額より不足していた場合、発起人がその不足分を支払わなくてはなりません。
発起人の連帯責任
発起人が第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合、会社が設立されるまでの間、発起人は連帯して責任を負います。
ただし、会社設立後は役員がその責任を継承するため、発起人が責任を負うことはありません。
発起人の条件
発起人になるために課せられる条件は、以下のとおりです。
年齢
未成年であっても発起人になることは可能です。ただし、15歳未満だと印鑑登録ができないため発起人の対象外となります。
15歳以上の未成年の場合、法定代理人の同意があれば発起人になることができます。
ただし、法定代理人の同意書と印鑑証明書、戸籍謄本などの書類を用意する必要があります。
国籍
外国籍であっても発起人になることは可能です。
通常の発起人と同様に印鑑証明書、または外国人登録証明書か運転免許証を用意しなくてはなりません。
人数
発起人の人数は制限がないので、1人以上であれば何人でも構いません。
以前は、会社設立には7人以上の発起人が必要でしたが、1990年に実施された商法改正後は1人以上の発起人がいれば会社を設立できるようになりました。
設立時に出資できるのは発起人のみとなっており、発起人は設立時の発行株式を1株以上引き受けなくてはなりません。1人で資金を集めるのが難しい場合、複数人の発起人を立てることで資本金を集めやすくなります。
発起人を決定するときの注意事項
発起人を決める場合に気を付ける点について、以下に説明します。
法人が発起人になる場合
事業目的は1つ以上合致させる
株式会社などの法人が発起人になることも可能ですが、法人に認められている権利能力は、その法人の定款に定められている事業目的の範囲内になります。
法人は、定款に定められていない事業内容(目的)を行うことができません。
そのため、新たに設立する会社の定款の目的には、発起人となる法人の定款に定められている目的に関連する項目が記載されている必要があります。発起人となる法人の目的が、最低1つでも新たに設立する会社の目的と合致していれば良いということです。
【関連】会社設立の事業目的の決め方を解説!定める理由やポイントは?
発起人が複数人いる場合
発起人を複数にする場合、資金面や責任のリスクが分散できるというメリットがあります。
その反面、重要事項などを決める際に意見が割れてしまい、会社設立まで時間を要してしまうこともあります。
一人で会社設立を行う場合は、自分の考え方や経営方針をそのまま反映させることができますが、発起人が複数人いると各自の考え方を尊重しなくてはなりません。
事業内容や資金調達において意見が割れた場合、会社設立の計画そのものがとん挫することも起こり得ます。発起人を複数人選出する場合は、以下の3点に注意してください。
1.発起人を増やし過ぎない
発起人が多いほど資本金も増えるため、なるべく多くの発起人を集めたほうが良いのではと思われがちですが、あまりにも多くの発起人が集まると、会社設立が難航する原因となりかねません。
あまりにも人数が多すぎると、発起人同士で経営方針に関する意見が割れ、意見のすり合わせが難しくなってしまいます。
意見の調整をするための日程を合わせたり、資本金を集めるまでの期間がまとまらなかったりと、発起人が多いことで生じる問題が発生する可能性があります。
また、人数が多いほど会社設立の必要書類を作成する手間も人数分増えることを考えると、発起人は最小限の人数に抑えておいたほうが良いでしょう。
2.考え方が合わない人を選ばない
発起人が複数人いると、意見の相違が生じやすくなり、会社設立が一向に進まなくなる恐れがあります。
各発起人ごとに自分の考えや意見があるのは当然ですが、基本的な経営方針や事業内容に異論を唱える人は発起人として選ばないほうが得策です。
建設的な議論ができるか、お互いの相性が良いかなどを考慮して選ぶようにしましょう。
3.出資比率に気を付ける
資本金の出資割合が多いほど、会社に対して強い発言権を得られます。「経営は自分が中心となって進めたい」と考えている場合は、出資比率に気を付けなくてはなりません。
たとえば、自分が筆頭株主であったとしても、他の株主の持分が過半数を超えていた場合、会社の経営権を奪われてしまうこともあります。
株式会社では議決権をより多く持っているほうが権利を有するため、いくら筆頭株主でも保有している株式が50%未満だと、他の経営陣から解任されることもあり得ます。
会社の経営権を自分が握りたいと思うなら、過半数または3分の2以上となる株式を引き受けるようにしましょう。
まとめ
自分だけの資金による会社設立が心もとない場合、つい発起人を増やしてしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし、発起人は将来的に株主へと変わるため、数を増やし過ぎると会社の経営権を失うことにもつながりかねません。
発起人を選定する際は、会社をどのような形で運営していきたいのかをよく考え、なるべく意見が一致する相手を選ぶように心がけてください。
また、自身が経営を主導していきたい場合、出資比率が過半数あるかどうかは非常に大切な指標です。よく話し合って決めるようにしましょう。
会社設立について何か不安なことやお困りのことがあれば、ハートランド税理士法人の無料相談をぜひご活用ください。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。