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平成31年4月、中小企業庁が発表した「2019年版中小企業白書・小規模企業白書」(以下、「中小企業白書」)によれば、創業数は、2014年から2016年の年平均で137,494件との報告があります。
倒産件数については、2009年以来10年連続で減少を続け、2018年の倒産件数は8,235件となり、バブル期の1990年以来28年ぶりの低水準となりました。
また、働き方改革により、副業を認める企業も増えつつあり、中小企業白書でも、フリーランスや副業による創業を促進することの重要性が報告されています。このような動きを見ると、今が会社を設立するチャンスなのかもしれません。
しかし、会社を設立しなくても、個人事業主という方法もあります。
個人事業主として事業を行った方が良いのか、それとも会社を設立した方が良いのか。
本記事では、
- 個人事業主か会社設立かを判断するポイント
- 会社を設立した場合のメリット・デメリット
についてご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
1.個人事業主?会社設立?どちらを選ぶか判断する3つのポイント
まずは、個人事業主でいくのか、それとも会社を設立した方が良いのか、どちらを選ぶか判断する3つのポイントをご紹介します。
ご自身がどちらに当てはまるのか確認しましょう。
1-1.事業は自分のみで対応可能な範囲か
個人事業主の場合は、基本的には自分ひとりで事業をすることになります。
取り扱う事業の内容が、自分ひとりでできる範囲なのかをしっかり考えてみましょう。事業に必要な知識やノウハウが自分にはない場合は、共同出資者や従業員が必要となり、会社を設立すべきでしょう。
また、事業の内容によっては、法人しか取り扱えないものもあるため注意する必要があります。
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1-2.事業の資金は自己資金で賄えるか
事業を行う際に必ず行きつくのが資金の問題です。
個人事業主の場合は、銀行からの融資を受けることは容易ではありません。
まずは、当面どの程度の事業資金が必要なのか、その資金は自分自身で賄うことができるのか、しっかり考えておきましょう。
1-3.事業を拡大したいのか
将来的に事業を拡大していきたいのかということも検討すべき重要なポイントです。
事業を拡大すれば、必要な資金と所得が増加します。融資を受ける場合や節税の観点からも、会社を設立するという選択が有利になるでしょう。
2.会社設立する7つのメリット
それでは、会社を設立するとどのようなメリットがあるのかご紹介していきましょう。
2-1.信用を得ることができる
会社を設立する際は、会社を登記する必要があります。法的に登記しているという面からも、一般的には、個人事業主より法人の方が信用を得やすくなります。
また、企業を相手に仕事をする場合などは、実績があっても個人へは仕事を発注しない(できない)という企業もたくさんあることを覚えておきましょう。
現在は1円から会社を設立することができます。そのため、必ずしも会社の方が個人より信用があるとは言い切れません。
しかし、名刺の肩書や「株式会社」といった記載があるだけで、取引相手の印象が違ってしまうというのも事実です。
もちろん、個人事業主でも、取引相手から信用を得ることは不可能ではありませんが、信用を得るまでには長い時間がかかってしまうこともあるでしょう。
2-2.節税メリットが大きい
法人税は、利益が増えても原則一定の税率であるのに対し、個人事業主の場合は、所得が増えるほど税率が高くなる累進税率で課税されます。
また、会社組織の方が、経費として扱える範囲が広くなります。
つまり、法人の方が節税面では有利になります(利益が大きい場合は特に)。
2-3.欠損金を9年間繰越できる
欠損金とは「税務上の赤字」のことです。
法人の場合、ある年度で損失が出た場合は、その損失を翌年度以降最大9年間、所得と相殺することができます(欠損金の繰越控除)。
しかし、個人事業主の場合は、純損失の繰越は3年間しかできません。
2-4.家族に給与を支払える
個人事業主の場合、青色事業専従者給与として税務署へ届出をした場合を除き、原則、家族に給与を支払うことはできません。
しかし、法人の場合はそのような制限がないため、実際に事業に従事していれば、労働の対価相当と認められる金額を家族に給与として支払うことができます。
家族に給与を支払うことによって、所得分散をし、経営者の所得税や住民税を節税することができるというわけです。
2-5.融資(資金調達)の審査に通りやすくなる
銀行が融資の判断をする場合は、財務面を重要視します。
財務面を判断するための材料が、損益計算書や貸借対照表です。
個人事業主の場合は、青色申告で満額の控除を受けない限り、貸借対照表を作成する必要はありません。しかし法人の場合は、決算の時期に、損益計算書と貸借対照表を作成しなければなりません。
そのため、銀行から融資を受けようとする場合、財務面を判断するための材料がない個人事業主は、会社組織よりも融資条件が厳しくなってしまうというわけです。
2-6.決算月を自由に設定できる
個人事業主の場合、事業年度は1月から12月までと決まっています。
一方、法人の場合は、自由に事業年度の決算時期を設定することができます。
そのため、業務の忙しい時期と、決算事務をしなければならない時期とをずらすことができます。
2-7.個人資産までは差押えられない
個人事業主の場合、借入金や仕入れ先への未払いなどは、事業主自身が返済しなければなりません。
一方、法人の場合は、責任の範囲が出資の範囲内に留まるため、万一会社が破産した場合でも形式上は個人の返済義務はないことになります。
ただし、中小企業の場合は、社長個人が連帯保証人になることを求められることが多いため、社長個人としての返済義務は個人事業主とあまり変わりません。
3.会社設立する4つのデメリット
一方でデメリットも存在します。
3-1.会社設立に費用や時間がかかる
会社を設立するためには、定款の作成費用や登記費用などが必要になります。
さらに、会社を解散する際にも、会社清算のための費用が必要になります。当然に、それらの手続きにかかる時間も必要になります。
【関連】
3-2.赤字でも法人住民税がかかる
法人の場合、赤字となった事業年度であっても、法人住民税の均等割は支払う必要があります。
3-3.社会保険への加入が義務づけられている
会社を設立すると、たとえ社長一人の会社であっても、社会保険(健康保険と厚生年金保険)への加入が義務づけられます。
社会保険料は、個人事業主が国民健康保険と国民年金に加入する場合に比べて高額になります。
そのため、社会保険料に係る会社の負担は大きくなってしまいます。
3-4.事務負担が大きい
会社の場合、会計ルールに従った会計処理を行う必要があります。
法人税の申告は、個人事業主の所得税の申告より複雑で、税理士・公認会計士などの専門家に依頼しないと時間がかかりすぎてしまうほどです。
また、社会保険や労働保険の手続きも必要になります。
加えて、株主総会の開催、役員変更登記など、法律上求められる手続も必要になり、個人事業主と比べて格段に事務負担が大きくなります。
4.まとめ
以上、事業を個人事業主として始めるか、最初から会社を設立するか判断する3つのポイントと、会社設立のメリットとデメリットをご紹介しました。
多くの場合、起業するときは会社設立を検討するでしょう。
しかし、会社設立にはメリット・デメリットの両方があり、事業内容や事業規模、将来の事業の拡大の意図なども影響するため、しっかりと検討する必要があります。
この記事が、会社設立をお考えの方の参考になれば幸いです。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。