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補助金や助成金とは、国や自治体の方針に沿った事業に対して資金を補助するための制度です。返済義務がないので、起業時の資金調達・雇用コスト削減のために活用することができます。
ただし、原則後払いなので、実際の支出から受給まで期間が空いてしまうなどのデメリットもあります。
今回は、起業・開業時に助成金を活用することのメリット・デメリットをまとめました。
助成金と補助金の違い
補助金と助成金は、似ているようで少し異なります。
まず、補助金の支給には必ず審査があり、申請したからといって全員が受け取れるとは限りません。
対して助成金は審査がない場合もあり、条件を満たしていれば申請者全員が受け取ることができます。また、補助金は主に経済産業省や地方自治体の管轄、助成金は厚生労働省の管轄のものが多いという違いもあります。
起業・開業時に利用できる助成金
起業時・開業時に利用できる代表的な助成金は、以下の通りです。
- キャリアアップ助成金
- トライアル助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 地方(地域)雇用開発助成金
- 生涯現役起業支援助成金
- 人材開発支援助成金
それぞれの内容や支給条件を解説していきます。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員の雇用条件を変更するなど、キャリアアップさせる活動をした事業者に支給される助成金です。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 健康診断制度コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
の7つのコースがあり、該当する非正規雇用従業員1人につき最大60万円が支給されます。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金とは、「職業経験・技能・知識等から安定した職業に就くことが困難な求職者」を、3ヶ月のトライアル雇用した時に受給できる助成金です。
具体的には、
- これまでに就労の経験のない職種または業務に就くことを希望する人
- 離転職を繰り返している人
- 直近で1年を超えて失業している人
- その他の就職の援助を行うに当たって特別の配慮を要する人
のトライアル雇用が該当します。
「その他の就職の援助を行うに当たって特別の配慮を要する人」とは、シングルマザー・生活保護受給者・季節労働者などのことです。該当する従業員1人あたり、月額4万円の助成金を受け取ることができます。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障害者など通常の就職や再就職が困難な人を継続的に雇用する場合に受給できます。
ハローワークなど適切な紹介業者から紹介を受け、雇用保険の一般被保険者として雇い入れるのが条件です。
雇用期間や労働時間によって支給額は異なりますが、特定求職者1人あたり30~240万円が支給されます。
地方(地域)雇用開発助成金
地方(地域)雇用開発助成金は、過疎地など雇用の少ない地域で3人以上(創業時は2人)の雇用を行う場合に受給できます。
対象となる地域には「同意雇用開発促進地域」「過疎等雇用改善地域」「特定有人国境地域等」の3種類があり、具体的な地名などは厚生労働省のホームページで確認できます。
その地域の労働者が就業するための施設を設置するためにかかった金額、雇い入れた人数によって異なりますが、48~960万円の助成金が支給されます。
生涯現役起業支援助成金
生涯現役起業支援助成金には、大きく分けて2種類があります。
- 雇用創出措置助成分:40歳以上の中高年齢者が起業して就業機会の創出を行い、従業員を雇用する時に必要な費用を助成
- 生産性向上助成分:雇用創出措置助成分の支給を受けてから、3年以内に6%以上の生産性向上が認められた場合、別途助成金を支給
支給額の上限は、起業する人の年齢が40~59歳で150万円・60歳以上で200万円です。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金には、以下の4つのコースがあります。
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- キャリア形成支援制度導入コース
- 職業能力検定制度導入コース
このような研修や職業訓練を導入することで、まずそれにかかった経費の30~60%が助成され、さらにその結果生産性が向上すれば追加の助成金が支給されます。
起業・開業時に助成金を利用するメリット
それでは、起業・開業時に助成金を利用するメリットを見ていきましょう。
返済が不要
助成金は、国や自治体が雇用創出・人材開発をサポートするために行うものです。
いわば、国や自治体の方針に協力したご褒美のようなものです。融資ではなく支給なので、返済する必要はありません。
助成金は雑収入となる
助成金は事業で得たものではないので、事業収入ではなく雑収入になります。
ただし、雑収入も事業収入と同じく課税の対象となるので、利益として残しておくのはおすすめできません。
もちろん雇用や研修にかかった費用が助成されたものは相殺されますが、そうではない助成金も福利厚生などで従業員に還元するようにしましょう。
会社の存続に影響を与える
人手が足りない・雇用コストが捻出できないなど経営が苦しいとき、助成金が会社の存続に影響を与える場合があります。助成金は通常の就職が困難な人の雇用を促進しているので、条件に合う人を雇用することでコストが抑えられ、人材も補填できるのです。
また、助成金は条件さえ当てはまれば全員が受給できるので、起業して間もない不安定な時期には資金調達の手段としても役立ちます。
会社の信頼度に繋がる
基本的に、助成金は雇用される従業員のために支払われるものです。賃金の改定や就業環境の整備、キャリアアップのための職業訓練などに助成金が支給されます。
そのため、助成金が支給されている企業は、従業員のためになる活動に積極的な良い会社ということ。助成金の受給によって、会社の社会的な信頼性も向上することにもなります。
起業・開業時に助成金を利用するデメリット
起業・開業時に助成金を利用するには、メリットだけではなくデメリットもあります。
デメリット面も知ってから、正しく助成金を利用するようにしましょう。
制度をすぐに変えることができない
助成金を受給するために始めた制度は、受給後すぐ打ち切ることはできません。
例えば、就業困難な人を助成金受給目的で雇用し、助成金が出たらすぐに解雇するというのは制度の目的に反しています。それが発覚した場合は不正受給となり、支給された助成金を返還しなければいけません。
雇用に関することだけではなく、賃金改定や研修の導入についても同様です。
受給までに時間がかかることが多い
助成金は返済義務がない分、条件を満たしているかどうかの審査は厳格です。申請には膨大な書類が必要となり、それを揃えるのには時間も手間もかかります。
さらに実際に支給要件を満たしてから申請・審査と進んでいくので、実際に設備や雇用に投資してから助成金の受給まではかなり時間がかかります。
先に費用が掛かる場合がある
助成金は原則後払いです。例えば、「特定の人材を継続して6ヶ月雇用」が条件の助成金の場合、採用コストや6ヶ月分の賃金などは会社で先払いしなければいけません。
施設の整備などが条件の助成金も、実際にかかった金額を申請しなければいけないので助成金が支給される前にまとまった支出が発生します。
また、申請書類の作成を司法書士に依頼した場合なども、助成金受給のためのコストがかかります。
助成金の申請から交付までの流れ
最後に、助成金を申請してから受給するまでの流れを見ていきましょう。
①助成金を選ぶ
まず、受給したい助成金や補助金の種類を選びます。助成金・補助金によって受給できる会社の規模や事業所を置いている地域などが決まっているので、自分の会社と合致するかどうかを確かめましょう。
また、あくまでも「助成金が欲しいから雇用や事業を作る」のではなく、「自分が行いたい雇用・事業に合う助成金があるかどうか」という視点で助成金を選ぶのがおすすめです。
②助成金の申請をする
申請する助成金・補助金が決まったら、書類を揃えて申請します。助成金の種類によって必要となる書類が異なりますので、それぞれの募集要項を確認しましょう。
③審査が行われる
助成金・補助金の実施団体により、審査が行われます。
助成金の場合は条件に合致しているかどうかの調査、補助金の場合は応募事業者の中から支給する会社を採択する作業です。
補助金の場合、採択されると「採択通知」が届くので、「交付申請書」を提出します。
④事業を開始する
助成金・補助金の申請時に提出した計画書通り、事業を実施します。継続雇用などが条件の助成金の場合は、順番が前後して「計画の実施後、申請」という流れになります。
事業を行う際は、計画書と実態が異なると不正受給になるため注意してください。
⑤助成金が交付される
最後に、実施した事業の内容やかかった経費を報告し、助成金・補助金の交付となります。
まとめ
補助金・助成金は、企業と従業員どちらに対してもメリットがある制度です。自分から申請しない限り支給されないので、起業時や社内制度を変えるときは合致する助成金があるかどうかチェックしてみましょう。
ただし、2019年10月現在、助成金・補助金は原則後払いなので、先にまとまった出費が必要となることもあります。
また、不正受給をすると全額返還しなければいけないので、補助金・助成金は適切に利用するようにしましょう。
監修:播广 祐子(はりま ゆうこ)
ハートランド社会保険労務士法人 代表社会保険労務士(大阪府社会保険労務士会所属 登録番号第27210131号)
地方自治体において17年間勤務。人事労務業務、社会保険の保険給付指導、保険医療機関指導業務のほか、総予算11億円を超えるベネッセアートサイト直島との協動による現代アートイベントのディレクションを担当。その後、23歳で取得した社会保険労務士の資格を活かすため、大阪市内の大手社労士法人に7年間勤務。年間1,000件を超える助成金申請をこなした助成金のスペシャリスト。労務相談、給与設計・計算、就業規則制定などの労務コンサルティング業務にあたりながら、研修講師としても活躍中。