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相続税の申告を終えたあと、「もしかして税務調査が来るかも?」と不安に感じていませんか?
税務調査は誰にでも起こりうることですが、事前に流れやポイントを知っておけば落ち着いて対応できます。
本記事では、以下の5つについて解説します。
- 相続税の税務調査とは
- 相続税の税務調査の対象になりやすい人の特徴
- 税務調査に入られたときに気を付けるべきこと
- 税務調査を回避するためにするべきこと
- 相続の税務調査に強い税理士の探し方
税務調査への不安を少しでも和らげ、安心して準備ができるようお手伝いしますので、ぜひ読んでみてくださいね。
相続税の税務調査とは
相続税の税務調査は、相続税の申告内容が正確かどうかを税務署が確認する手続きです。
すべての申告が調査対象になるわけではなく、申告に不自然な点がある場合や、高額な相続が発生した場合など、限定的に実施されます。
特に、財産の過少申告や申告漏れが疑われるケースでは、調査の可能性が高まります。
税務調査には、大きく分けて以下の2種類があります
- 実地調査納税者の自宅や税理士事務所などに税務署職員が訪問し、帳簿や資料の確認、質問などを行う形式
- 簡易な接触書面のやり取りなどで済む比較的軽微な調査
実地調査が行われる割合は、全体の相続税申告件数のうち約1割未満です。
さらにその中の約80%以上のケースで申告漏れが指摘されているという、国税庁の公表データがあります。
税務署は、以下のような多角的な情報をもとに調査対象を選定しています
- 金融機関の口座情報
- 不動産の登記情報
- 過去の贈与税申告履歴
- 家族構成や生活実態など
このように、申告時の書類だけでなく、過去の資産移転や背景情報もチェック対象となります。
相続税の税務調査を避けるためには、正確な申告と必要書類の整備が不可欠です。
不安がある場合は、早い段階で税理士への相談を検討するとよいでしょう。
相続税の税務調査の対象になりやすい企業の特徴
相続税の税務調査は無作為に行われるわけではありません。
税務署は限られた人員で効率的に調査を進める必要があるため、事前の情報分析をもとに「申告内容に不自然さがある」「過去の傾向から申告漏れの可能性が高い」と判断されるケースに優先して着手します。
以下では、特に税務調査の対象になりやすいとされる6つの特徴を紹介します
- 財産の申告漏れがある
- 相続財産に見合わない借入金がある
- 死亡直前に多額の現金引き出しがある
- 生命保険契約の契約者・保険料負担者と受取人が異なる
- 生前の贈与が多い
- 税理士に依頼せず、自己申告している
相続税の申告で財産の漏れがあった人
税務調査で最も多く指摘されるのが、財産の申告漏れです。
特に見落とされやすいのは、被相続人名義ではない財産や、相続人が預かっていた現金、有価証券などです。また、名義預金(被相続人が管理していた家族名義の口座)も典型的な調査対象になります。
税務署は、金融機関への照会や通帳履歴、贈与記録、不動産の名義変更などから申告されていない財産を見抜く力を持っています。
そのため、「この程度なら見つからないだろう」という認識で意図的に省いた財産があると、調査対象となるリスクが高まります。
正確な申告を行うためには、財産の洗い出し段階で専門家に相談し、見落としがないよう入念に確認することが重要です。
相続税納税額や遺産総額が多い人
相続財産の総額が多い場合、その分だけ課税対象も複雑化し、申告ミスが生じる可能性が高まると税務署は考えます。
そのため、相続税の申告額や遺産総額が一定以上の場合には、重点的に調査が行われる傾向があります。
具体的には、遺産総額が2億円を超えるケースや、納税額が1,000万円以上の申告に対しては、国税庁が定期的に行う「重点管理対象」としてピックアップされやすいとされています。これは高額な財産を持つ人ほど、複数の金融機関口座や不動産を保有しており、財産の評価や分割方法が複雑化するためです。
高額相続が発生した場合には、評価の誤りがないか、納税額の根拠が明確かどうかを第三者(税理士)にチェックしてもらうのが望ましいでしょう。
自力で相続税を申告した人
相続税を税理士などの専門家に依頼せず、自力で申告した場合は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。
相続税の申告は、財産の評価や控除の適用、過去の贈与との関係性の整理など、多くの専門知識が求められるため、誤りが生じやすいからです。
特に、土地や建物などの不動産の評価は、路線価や倍率、利用状況によって金額が大きく変わるため、専門的な知識がない状態で正確な評価を行うのは困難です。
また、小規模宅地等の特例や配偶者控除といった制度の適用条件を誤っている場合、過少申告と判断されるリスクもあります。
国税庁の調査によると、税務調査が行われた相続のうち、自力申告によるケースでは修正申告の割合が高く、結果的に追加で税金を支払う事例も少なくありません。
こうした背景から、自力申告は「申告内容に不備がある可能性が高い」とみなされやすく、税務署が優先的に確認を行う対象になります。
相続税の申告を適切に行うには、税理士などの専門家に依頼し、複雑な評価や特例の適用を正確に処理してもらうことが、税務調査を回避する有効な対策となります。
家族の資産が多い人
被相続人個人の名義では大きな財産がないように見えても、家族全体として高額な資産を保有している場合、税務署は「名義を分散させて課税を回避しているのではないか」と疑い、調査対象とすることがあります。
特に、生前に被相続人が実質的に管理していた「名義預金」や「贈与と見せかけた資金移動」が見られると、相続財産として加算される可能性が高まります。
たとえば、被相続人の配偶者や子ども名義の口座に多額の預金があり、それを被相続人が管理・運用していた場合、その預金は形式上は家族の財産でも、実質的には被相続人の財産とみなされます。
このようなケースは、相続税の申告で漏れやすく、税務署も重点的にチェックを行います。
また、相続人が「家族の財産」として資産の一部を申告から除外してしまうケースもありますが、税務署は金融機関への照会や過去の贈与記録、通帳の入出金履歴などから、実質的な所有者を調査・特定する能力を持っています。
家族全体で財産を保有している場合は、「誰の名義か」ではなく「誰の管理下にあったか」「誰が実質的に使っていたか」を基準に申告の可否を判断する必要があります。
判断に迷う場合は、相続税に精通した専門家へ相談するのが賢明です。
国外財産がある人
被相続人が国外に財産を保有していた場合も、税務署は相続税の申告内容を厳しく確認します。
特に最近では、国際的な資産隠しを防止するための情報共有制度(CRS=共通報告基準)が整備され、日本の税務署も国外の金融機関と連携して情報を入手できるようになっています。
たとえば、海外口座に多額の預金がある、海外不動産を保有している、外国企業の株式を所有しているといったケースは、申告漏れが発生しやすい分野として注目されやすくなっています。
さらに、過去に国外財産調書や国外転出時課税制度の対象となっていたかどうかも調査の手がかりとなります。
国外財産については評価方法も国内とは異なる点があり、為替レートや不動産の現地評価基準などの取り扱いにも注意が必要です。
不慣れな手続きによる申告ミスが生じやすいため、国外資産を保有していた場合は、国際税務に詳しい専門家のサポートが不可欠です。
相続人名義の証券口座に残額が多くある人
被相続人の死後、相続人の名義で開設されていた証券口座に多額の資産が存在していた場合、それが本当に相続人自身の財産だったのかどうかが問題視されることがあります。
とくに、生前に被相続人がその証券口座を実質的に管理していた場合、「名義預金」や「名義株」と同様に、形式的な名義と実質的な所有者の乖離が疑われます。
税務署は、証券会社への照会や過去の取引履歴を精査することで、誰がその資産を管理・運用していたのかを判断します。
たとえば、証券会社とのやり取りや取引指示を被相続人が行っていた形跡があると、その資産は相続財産として加算される可能性が高くなります。
また、口座に残された有価証券がいつ取得されたものか、取得資金の出所がどこだったかも重要な判断材料です。
贈与契約書や資金移動の記録が不十分である場合には、形式上は相続人名義でも、実質的には被相続人の財産とみなされかねません。
このようなケースでは、資産の来歴や管理状況を証明する資料を事前に整理しておくことが非常に重要です。
少しでも不安がある場合は、早めに税理士に確認することでトラブルを回避できます。
税務調査に入られたときに気を付けるべきこと
相続税の申告後、一定の確率で税務調査が行われることがあります。
税務調査は突発的なものではなく、申告内容や財産規模、過去の贈与歴などを踏まえて慎重に選定されるため、「うちは大丈夫」と油断せず、万が一に備えた準備が重要です。
以下の4つのポイントを意識しておくことで、調査への不安を軽減し、冷静に対応できるようになります。
- 被相続人の財産を把握しておく
- 申告内容を証明する資料を揃えておく
- 申告書の内容を再確認しておく
- 税理士に立ち会いを依頼しておく
被相続人の財産を把握しておく
税務調査でまず確認されるのが「財産の全体像」です。
被相続人が亡くなる直前までどのような生活を送り、どんな資産を保有していたのか、その全容を把握しておくことが大切です。
金融資産だけでなく、タンス預金、不動産、名義預金、さらには骨董品や貴金属なども対象になります。
相続人自身が「何が財産としてみなされるのか」を理解していないと、意図せず申告漏れが生じてしまう可能性があります。
また、調査では過去数年分の通帳の出入金履歴なども確認されるため、相続発生前後の資金移動についても整理しておきましょう。
生前贈与や相続開始直前の大きな出金など、説明が必要な取引がある場合は、その理由や背景も整理しておくと安心です。
申告内容を証明する資料を揃えておく
相続税の申告書には、財産の金額や評価方法、控除の内容などが記載されますが、それらが正確であることを示すためには「根拠となる資料」が不可欠です。
たとえば、不動産であれば評価証明書や固定資産税の明細、預貯金であれば相続発生時点の残高証明書、株式であれば時価評価に関する資料など、種類は多岐にわたります。
また、生前贈与があった場合には贈与契約書や振込記録など、適切に贈与が行われていたことを示す書類も必要です。
これらの書類がきちんと整理されていないと、調査官に不信感を与える原因になりかねません。
日付や金額、取引先などが一目で分かるように資料を分類し、申告内容に対応する形で用意しておくと、スムーズな対応が可能になります。
申告書の内容を再確認しておく
申告書の提出から時間が経つと、申告時の内容を正確に思い出せないというケースも珍しくありません。
しかし、税務調査では提出済みの申告書の記載内容について質問されるため、相続人自身がその中身を把握しておくことが大切です。
たとえば、「なぜこの不動産の評価額になっているのか」「この預金の出金の目的は何か」「特定の財産が誰の手に渡ったのか」など、細かな質問がされることもあります。
「税理士にすべて任せたから分からない」では済まされない場面もあるため、自分が申告書にどのような内容を提出したのか、再度見直しておくことをおすすめします。
特に非課税枠や小規模宅地等の特例を活用している場合には、その適用要件や判断根拠についても理解しておくと、調査時に戸惑わずに対応できます。
税理士に立ち会いを依頼しておく
税務調査には、相続税の申告を担当した税理士に立ち会ってもらうことが一般的です。
税理士が同席することで、税務署との専門的なやりとりを代行してもらえたり、相続人では判断が難しい質問に対しても的確な回答が可能になります。
税理士は、申告時の事情や資料の背景を把握しているため、調査官からの質問にも根拠を持って説明できます。
これにより、余計な誤解や行き違いを防ぐことができ、相続人の心理的負担も大幅に軽減されるのです。
調査の通知を受けた段階で、なるべく早く税理士に連絡を取り、日程の調整や事前打ち合わせを行っておくと安心です。
調査は基本的に1日で終わるものですが、準備不足だと長引く可能性もあるため、専門家と一緒にしっかり対応する姿勢を整えておきましょう。
税務調査を回避するためにするべきこと
税務調査の対象に選ばれにくくするには、申告前の準備が肝要です。
特に次の4項目は、国税庁が調査で重視するポイントと直結します。
該当する対策を徹底し、申告内容の信頼性を高めましょう。
- 税理士に依頼する
- 名義預金とみなされないようにする
- 相続財産を正しく把握する
- 生前贈与した場合は証拠を残しておく
税理士に依頼する
税務調査を避ける第一歩は、申告段階から税理士に依頼することです。
自力申告は評価誤りや添付書類不足が起こりやすく、調査選定率が上がると指摘されています。
国税庁は税理士の「書面添付制度」を活用した申告について、実地調査前に意見聴取で済む可能性が高いと明示しており、専門家が関与するだけで調査着手が簡略化されるケースが多いのです。
複雑な財産を抱える場合は、相続税を専門とする税理士と契約し、評価根拠や添付資料を整備してから申告することで、調査リスクを大幅に低減できます。
名義預金とみなされないようにする
名義預金とは、家族名義でも実質的な管理・運用が被相続人だった預金を指し、国税庁は代表的な申告漏れ財産として例示しています。
通帳や印鑑が被相続人の手元にあり、相続人が預金の存在を知らない場合は、形式上の名義に関係なく相続税の課税対象となるため注意が必要です。
資金拠出者と管理者を分けるには、贈与契約書の作成、通帳・印鑑の移転、生活費や学費など使途を示す記録を残すことが不可欠です。
資金移動の経緯を説明できる証拠を保管し、名義預金と判断されない体制を整えれば、税務調査での指摘を防げます。
相続財産を正しく把握する
令和5事務年度の調査では、実地調査2,847件中およそ8割で申告漏れが見つかり、追徴税額は108億円に達しました。
申告漏れの主因は「財産の把握不足」で、現金・預貯金・有価証券が全体の約4割を占めています。
被相続人名義はもちろん、家族名義の口座や未登記の不動産、国外資産まで網羅的に洗い出し、評価方法と残高を一覧表にまとめることが重要です。
さらに、死亡直前の大口出金や資金移動の使途を説明できるよう領収書や契約書を整理すれば、調査官の疑念を未然に解消できます。
資産一覧を作成したら税理士と突き合わせ、漏れがないか第三者の視点で確認してから申告しましょう。
生前贈与した場合は証拠を残しておく
相続開始前三年以内の贈与加算や名義預金の判定は、税務調査で必ず確認される項目です。
贈与の成立を証明するには、贈与契約書を作成し、資金の振込記録を残し、受贈者が通帳と印鑑を自ら管理している実態を示す必要があります。
国税庁も贈与契約書の雛形や必要事項を公表し、形式的・実質的要件の両方を満たす重要性を説明しています。
証拠が不十分だと「贈与ではなく相続」と判断され、課税額が増えるばかりか加算税まで負担することになりかねません。
贈与を行う際は、毎年の契約書と贈与税申告書を保管し、資金移動の経緯を明確にすることで、調査リスクを抑えられます。
相続の税務調査に強い税理士の探し方
税務調査のリスクを最小限に抑えるには、調査対応の経験が豊富な税理士を選ぶことが不可欠です。
失敗しない探し方は次の二点に集約されます。
- 依頼前に面談する
- 実績を確認する
以下で、それぞれのポイントを詳しく解説します。
依頼前に面談する
税理士選びで最も重要なのは、正式契約の前に必ず面談し、相続税と税務調査に対する知見を直接確かめることです。
面談では、相続財産の種類や規模を説明したうえで「名義預金はどのように判定しますか」「書面添付制度を利用しますか」といった具体的な質問を投げかけます。
書面添付制度を利用する税理士は、税務署が実地調査へ移行する前に“意見聴取”で疑問点を解消できるため、調査選定率を下げられると国税庁も説明しています。
質問への回答が明快で、調査時の立会体制や報酬体系を透明に示せる税理士であれば、安心して申告を任せられます。
面談は最低でも2〜3事務所で実施し、相性や説明力を比較検討しましょう。
実績を確認する
税務調査に強い税理士かどうかを見極めるうえで、相続税の申告件数と調査対応の実績確認は欠かせません。
一般的に相続税申告は1件あたりの工数が大きく、年間取り扱い件数が20〜50件を超える事務所は、相続特化型である場合が多いといわれます。
また、国税OBを含む事務所や、過去に税務調査で追徴課税ゼロの事例を複数持つ税理士は、調査官の論点を熟知しており心強い存在です。
公開資料やホームページで「相続税専任チーム」「年間○件以上の申告」といった客観的数字を掲げているかを確認し、可能なら過去の調査対応の流れを聞いておきましょう。
実績を裏づける情報開示が十分な税理士は、申告書に書面添付制度を活用し、調査率を大幅に低減できると各種専門サイトも紹介しています。
依頼前に数値根拠を確認し、信頼できるパートナーを選定してください。
大阪・東京で相続税の計算・申告にお悩みの方はハートランド税理士法人へご相談ください
相続税の申告後、税務署からの「税務調査」が入る可能性があります。
これは誰にでも起こり得るもので、特に「財産に不明な点が多い方」「過去の贈与歴が明確でない方」などは調査の対象となりやすい傾向があります。
税務調査は突然行われるわけではなく、申告から1~2年以内に行われるケースがほとんどです。
正しい申告をしていれば恐れることはありませんが、不安な場合は早めに専門家に相談することで、回避や事前対策が可能です。
ハートランド税理士法人では、相続税申告に伴う税務調査への備えについてのご相談も承っています。
「調査が来るかもしれない…」と不安な方は、まずはお気軽にお電話・メール・LINEでご相談ください。

監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。