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「会社設立のメリットって本当にあるの?」「法人化したほうがいいと聞いたけど、デメリットもあるのでは…」
そんな不安や疑問を抱えていませんか?
会社設立には、信頼性の向上や節税効果といった大きなメリットがありますが、同時に費用や社会保険、事務手続きの負担など、軽視できないデメリットも存在します。法人化がすべての個人事業主にとって最適とは限らないため、自身の事業規模や将来計画に照らして判断することが重要です。
本記事では、以下の内容をわかりやすく解説します。
- 会社設立のメリット・デメリット
- 法人化すべき個人事業主の特徴とすべきでないケース
- 会社の形態ごとの違い
- 設立にかかる費用とその内訳
- 会社を設立する具体的な手順
これから法人化を検討している方、または現状にモヤモヤを感じている個人事業主の方は、ぜひ最後までご覧ください。
会社設立の8つのメリット

それでは、会社設立のメリットを知っていきましょう。会社設立には、以下の8つのメリットがあります。
- 社会的信用度が高くなる
- 所得が高ければ節税になる
- 資金調達しやすくなる
- 良い人材を集めやすくなる
- 責任範囲の限定
- 事業継承しやすくなる
- 決算日を自由に決められる
- 相続税がかからない
1.社会的信用度が高くなる
会社の経営者は個人事業主よりも社会的信用度が高くなります。
これは、単に「会社を経営している」というイメージだけが原因ではありません。会社設立には個人事業主の開業よりも複雑な手間とコストがかかるため、事業への本気度が高いと見なされやすいからです。
2.所得が高ければ節税になる
会社設立のメリット2つ目は、所得が高ければ節税になるということです。
例えば、以下のように最大税率でも大きな差があります。
- 個人事業主の所得税…最大税率45%(住民税と合わせると55%)
- 会社の法人税…税率約30%(実効税率)
さらに、会社の方が経費に算入できる範囲が大きく、ある程度所得が高くなると、会社設立をした方がかなりお得と言えるでしょう。具体的には、所得500万円ほどから法人成りを視野に入れる個人事業主が増えてきます。
3.資金調達しやすくなる
会社設立の際には「資本金」という運転資金を用意する必要があるため、事業がうまくいかないときも、個人事業主より会社の方が返済は滞りにくい傾向にあります。
そのため、個人事業主よりも金融機関や投資家から融資を受けやすくなるでしょう。
4.良い人材を集めやすくなる
社会的信用度の高さは、人材募集の際にも関わってきます。
長く安定して勤められる職場を探している求職者の立場からすると、資本金の額が明確で、資金調達もしやすい会社の方が「安定している」と見えやすいのは当然と言えるでしょう。
5.個人の責任が有限になる
個人事業主の場合、事業が失敗した場合の責任は全て本人が負わなければいけません。廃業時に負債があれば、全額返済する義務があります。
一方、会社の場合は社長であっても責任は有限です。会社が負債を持って倒産した時も、有限責任の役員や社員は出資した金額を失うだけで済みます。倒産時のリスク回避ができるのも、会社設立のメリットと言えるでしょう。
6.事業継承しやすくなる
個人事業主の法律上の扱いは、あくまでも「事業を行なっている個人」です。
そのため、創始者が引退するときなど事業継承したい場合には、事業を贈与・売買・相続などの形で引き継ぐことになります。
一方、会社の場合、経営者と会社は別々のものです。社長が退任し、次の社長が就任するという手続きだけで事業継承ができます。
もちろん、このような手続きには役員や株主の承認が必要ですが、事業自体を贈与や売買するよりもはるかにスムーズです。
7.決算日を自由に決められる
個人事業主の事業年度は、毎年1月1日~12月31日と決まっています。
一方、会社の事業年度は会社設立時に自由に設定することが可能です。
そのため、資金繰りに余裕がある時期に設定したり、繁忙期を避けて決算業務がしやすい時期に設定したりと、自社にとって有利に決算を行うことができます。
8.相続税がかからない
個人事業を相続するとき、事業主が多くの財産を持っている場合は多額の相続税が課せられます。
しかし、事業を法人として会社を設立しておけば、財産は法人所有のものとなり相続税がかかりません。
これは、最初の項目で解説した「会社は法律上、人として扱われる組織」ということがポイントになります。会社は法人格を持っているため財産を所有でき、相続税の対策にもなるのです。
会社設立の5つのデメリット
会社設立には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。特に、事業経験の浅い個人事業主や小規模事業者にとっては、以下の5点が大きな障壁となる場合があります。
- 会社設立には費用と時間がかかる
- 会社のお金と個人のお金が分かれる
- 赤字でも支払わなければいけない税金がある
- 社会保険への加入が義務付けられる
- 事務作業や手続きが増える
それぞれのデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
1.会社設立には費用と時間がかかる
法人を設立するには、初期費用として10万円〜25万円程度が必要です。株式会社の場合は、定款認証の手数料や登録免許税が発生し、費用負担が大きくなります。
さらに、設立にかかる書類作成や登記手続きには時間と専門知識が求められるため、個人事業主に比べて事業開始までのハードルが高いです。すぐに開業できない点や、専門家に依頼する場合の追加費用も考慮する必要があります。
2.会社のお金と個人のお金が分かれる
法人は個人とは別の存在であるため、会社の資金を私的に使用することはできません。たとえば、会社の口座から生活費を引き出すと「役員貸付金」として処理され、税務調査の対象になることがあります。
個人事業主のように柔軟な資金管理ができないため、経理処理の煩雑化や税務リスクの増加につながる可能性があります。経理や会計に不慣れな場合は、注意が必要です。
3.赤字でも支払わなければいけない税金がある
法人には、利益が出ていない場合でも「法人住民税の均等割」などの税金が課されます。具体的には、赤字決算であっても最低7万円(地域により異なる)を納税する義務が生じます。
これは利益に連動しない固定費であり、売上が安定していない初期段階の法人にとっては大きな負担になります。資金繰りの悪化を招かないよう、あらかじめ想定しておくことが重要です。
4.社会保険への加入が義務付けられる
法人は、代表者1人でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。その保険料は、会社と個人で折半となるため、個人事業主に比べて負担が増加します。
とくに売上が少ない段階での加入は、経営を圧迫する要因になりやすく、支払いに困るケースもあります。従業員を雇用する場合は、さらに保険料負担が増える点にも注意が必要です。
5.事務作業や手続きが増える
法人運営では、決算・法人税申告・取締役会の議事録作成など、定期的な事務作業が発生します。これらは税務署や法務局への提出が義務化されており、個人事業に比べて明らかに手間がかかります。
そのため、会計ソフトの導入や税理士との契約が必要になるケースも多く、ランニングコストが発生します。事務作業に追われて本業に集中できなくなるリスクもあるため、業務効率化の対策が求められます。
法人化すべき個人事業主の特徴
個人事業主として活動している中で、法人化を検討すべきタイミングや状況があります。以下のような特徴に該当する場合は、会社設立によって得られるメリットが大きくなる可能性があります。
- 年間売上が1,000万円以上ある
- 資金調達の手段を増やしたい
- 企業との取引をスムーズにおこないたい
- 家族を従業員として雇いたい
- 節税の幅を広げたい
それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
年間売上が1,000万円以上ある
年間売上が1,000万円を超えると、法人化による節税メリットが顕著になります。たとえば、所得が高い場合は個人の所得税率が上昇しますが、法人税率のほうが相対的に低くなるため、税負担を抑えることが可能です。
また、経費として計上できる範囲が広がることで、手取りを増やしやすくなります。消費税の免税期間が適用される点も含め、売上規模が大きい個人事業主は法人化の恩恵を受けやすいといえるでしょう。
資金調達の手段を増やしたい
法人は、金融機関やベンチャーキャピタルなどからの資金調達において信頼性が高く評価されます。個人事業主では難しい大口融資や出資を受ける際、法人格があることが大きなプラスになります。
また、法人として事業計画書を提出し、社会的信用を得ることで、補助金・助成金の申請においても優位性が生まれます。今後の事業拡大を見据えて資金調達の選択肢を増やしたい場合、法人化は有効な選択肢です。
企業との取引をスムーズにおこないたい
法人であることで、取引先企業からの信頼を得やすくなります。多くの企業では、契約時に「法人であること」を条件とするケースがあります。個人事業主のままだと契約書が結べない、支払いサイトが不利になるといった実務上の不都合が生じることもあります。
法人格があることで、対外的な信用力や取引上の安心感が高まり、BtoBの取引がスムーズに進みやすくなるのが特徴です。
家族を従業員として雇いたい
家族を従業員として雇用し、社会保険に加入させることができる点は法人化の大きなメリットです。個人事業主でも専従者給与の仕組みはありますが、税務上の制限や所得分散の限界があります。
法人では、家族を正規の従業員として雇い、給与支払・保険加入の面でより柔軟な対応が可能です。結果として節税効果が高まり、家族を巻き込んだ経営体制の構築にもつながります。
節税の幅を広げたい
法人化することで、個人事業主よりも多様な節税手段を活用できるようになります。たとえば、役員報酬を設定することで所得分散が可能になり、所得税・住民税の圧縮につながります。
また、法人では生命保険料や出張旅費規程、社宅制度などを整えることで、経費計上の幅が広がる点も特徴です。個人では控除対象にならない支出でも、法人では合法的に経費処理できる場合が多く、結果として手元に残る利益を増やすことが可能です。将来的に利益を再投資する構想がある場合などにも、節税効果の高い法人形態は有効な選択肢となります。
法人化すべきでない個人事業主の特徴
すべての個人事業主にとって法人化が最善というわけではありません。事業の規模や目的によっては、法人化がかえって負担になる場合もあります。以下のような特徴がある場合は、現段階で法人化を急ぐ必要はないといえるでしょう。
- 事業拡大を考えていない
- 売上や利益があまり出ていない
それぞれの特徴について具体的に解説します。
事業拡大を考えていない
今後も個人のスキルや趣味の延長で小規模に続ける予定であれば、法人化のメリットは限定的です。法人化により社会保険の強制加入、赤字時の税負担、事務作業の増加などが発生するため、現状維持を望む場合にはコストだけがかかる可能性があります。
事業規模の拡大や他者との取引増加といった見込みがない場合は、個人事業のままで運営するほうが効率的です。特に副業や単発の業務が中心の方は、法人化による恩恵を感じにくいでしょう。
売上や利益があまり出ていない
今後も個人のスキルや趣味の延長で小規模に続ける予定であれば、法人化のメリットは限定的です。法人化により社会保険の強制加入、赤字時の税負担、事務作業の増加などが発生するため、現状維持を望む場合にはコストだけがかかる可能性があります。
事業規模の拡大や他者との取引増加といった見込みがない場合は、個人事業のままで運営するほうが効率的です。特に副業や単発の業務が中心の方は、法人化による恩恵を感じにくいでしょう。
株式会社と合同会社の違い
現在設立できる一般的な会社の形式には、「株式会社」と「合同会社」があり、それぞれ特徴が異なります。
株式会社
株式会社の特徴は、株を発行して資金調達を行うことです。そのため、大規模な資金調達も可能です。会社設立の手続きは合同会社より複雑なため、社会的信用度も高い傾向にあります。
また、当然ですが株式上場できるのは株式会社のみです。いずれ会社の規模を拡大し、上場企業を目指したいなら会社設立の際は株式会社を選びましょう。
合同会社
合同会社とは、株式を発行せず社員が出資しあって設立する会社です。
そのため事業規模は小さくなりがちですが、株式会社に比べて経営の自由度が高いのが合同会社のメリットです。例えば、1人で合同会社設立をする場合、完全に自分の考えだけで会社の意思決定ができます。
なお、複数人で出資して起業する場合も、出資額に関わらず利益の分配は等分です。出資額は低いものの、貢献度の高いメンバーがいる場合などは合同会社設立が適しています。
会社設立にかかる費用
会社を設立する際には、登記や定款認証に関わる法定費用に加え、専門家への依頼料なども発生します。会社形態や依頼の有無によって費用は異なりますが、目安として以下の金額を把握しておくと良いでしょう。
株式会社設立の場合の費用
株式会社の設立にはおおよそ20万円〜25万円程度の費用がかかります。主な内訳は、定款認証の手数料(5万円)、登録免許税(最低15万円)、収入印紙代(4万円・電子定款なら不要)などです。
さらに、司法書士や行政書士に依頼する場合は別途5万円〜10万円程度の報酬が発生します。自分で手続きを進めることも可能ですが、専門知識が必要なため、確実性を重視するなら外部に依頼するのが一般的です。
合同会社(LLC)設立の場合の費用
合同会社の設立費用は株式会社に比べて安く、6万円〜10万円程度で済みます。主な内訳は、登録免許税(最低6万円)と、定款の作成・提出費用です。合同会社は定款認証が不要なため、印紙代や公証人手数料が発生しません。
また、設立後の管理も比較的簡単で、個人事業主からの法人成りに選ばれることが多いです。費用を抑えてスピーディーに法人化したい場合に適した選択肢です。
その他にかかる初期費用
会社設立後も、印鑑作成・名刺印刷・開業届提出・会計ソフト導入など、さまざまな間接コストがかかります。たとえば会社実印の作成に5,000円〜1万円程度、法人用口座開設時に必要な印鑑証明の取得費などが挙げられます。
また、登記簿謄本の取得や税務署・年金事務所への各種届出にも手間と費用が伴います。事業開始に向けた準備資金として、余裕を持って10万円前後を見込んでおくと安心です。
会社を設立する際の流れ
まず、会社の基本情報を決定します。これには、商号(会社名)、本店所在地、事業目的、資本金、役員構成などが含まれます。次に定款を作成し、公証役場で認証を受ける必要があります。電子定款を利用すれば印紙代が不要になるため、費用を抑えることが可能です。
その後、資本金の払い込みを行い、法務局に設立登記の申請を提出します。この登記が完了すると、正式に法人格が認められ、会社が誕生します。通常は登記完了までに1週間前後を要します。
登記後は、税務署・都道府県税事務所・市区町村などへ開業届や法人設立届出書を提出します。また、社会保険や労働保険の加入手続きも必要になります。これらの手続きは同時並行で進めることが多く、事前にスケジュールを整理しておくとスムーズです。
まとめ
会社設立は、信頼性の向上や節税など多くのメリットがある一方で、設立費用・社会保険・事務負担といったデメリットも存在します。法人化すべきかどうかは、売上規模や将来の事業計画に応じて慎重に判断する必要があります。
特に、年間売上が1,000万円を超えたり、法人としての信用が必要になったりする場合は、法人化のタイミングとして適しています。
一方で、事業を小規模に留めたい方や、収益が安定していない場合は、法人化による負担が重くなる可能性があるため注意が必要です。

監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。












