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個人事業主の方は、自宅を仕事場しているケースも珍しくありません。この場合、事業用の経費とプライベート用の費用を分けて考える必要があります。
これが「家事按分(かじあんぶん)」の考え方です。
今回の記事は、
- 家事按分とは
- 家事按分できるかどうかを判断するポイント
- 家事按分は「青色申告」と「白色申告」で扱いが異なる
- 家事按分できる主な経費と計算方法
- 家事按分の記帳方法
について詳しく解説していきます。
家事按分とは
家事按分とは、
「仕事用とプライベート用が混ざった支出があるとき、仕事用の比率分のみ経費計上すること」
です。
個人事業主や小規模法人の方は自宅が仕事場になっていることが多く、支出の中には事業とプライベートの両方にかかっている費用もあるはずです。
家賃や水道光熱費などは明確に分けることが難しいものの、合理的かつ客観性のある区別ができている場合は必要経費として認められます。
家事按分できるかどうかを判断するポイント
家事按分できるかどうかを判断するポイントは以下の3つです。
- 業務に直接関連しているか
- 業務上の必要性はあるか
- 業務とプライベートの費用を明確に区分けできているか
それぞれ解説していきます。
【参考】国税庁・所得税法第37条に規定する直接性に関する一考察
【参考】国税不服審判所「家事費・家事関連費」
業務に直接関連しているか
例えば、従業員が家族のみにも関わらず、「従業員向けのイベントを開催した」という理由では家事按分と認められるのは難しいでしょう。
従業員のモチベーション次第で売上が増加するというのは可能性はありますが、直接的に関連しているわけではないので、家事按分が否認されることがあります。
業務上の必要性はあるか
例えば、従業員が家族のみのだった場合の慰安旅行は、旅行したことで離職が防げるとも限りませんし、売上に繋がるとも考えられません。
「家族旅行」と変わりないと判断されるでしょう。むしろ、この支出によって事業に悪影響がでる可能性もありますので、業務上としては必要性がないとものと判断されるでしょう。
業務とプライベートの費用を明確に区分けできているか
例えば、慰安旅行は従業員が日ごろの頑張りや成果などを労うために行う旅行のことを指します。
それが家族のみだった場合、日頃の疲れを取ることはできると思いますが業務とプライベートの費用として明確に区別することは難しいでしょう。
家事按分の判断は、あくまでも総合的に勘案し客観性があるかを判断しています。
家事按分は「青色申告」と「白色申告」で扱いが異なる
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類方法があり、家事按分として認められるかどうかの基本的な考え方は同じです。
ただし、家事按分として認められる範囲には差があります。
青色申告の場合
青色申告の場合の家事按分は、業務上必要と判断されれば、その全てを経費計上することができます。
【参考】所得税法施行令第96条第2号
白色申告よりも、青色申告の方が経費として認められる幅が広くなっています。
また、青色申告は「少額減価償却資産の特例」を使用することで、30万円未満(年間は300万円)まで一括計上できるというメリットがあります。
白色申告の場合
白色申告の場合は、下記2点の条件を満たしていなければいけません。
- 家事按分の割合が限定的であること
- 業務に関する割合が「50%超え」または「明確に区分できるもの」
家事として使っている割合よりも業務で使っている割合が多いことが前提です。電気代や通信費などを少ししか業務で使用していない場合は経費として認められません。
【関連】
・白色申告と青色申告の違いとは?それぞれの特徴とメリット・デメリット
・確定申告(白色申告)で使用する「収支内訳書」の種類、入手方法や作成方法、書き方の注意点を解説
家事按分できる主な経費と計算方法
家事按分には、法律上の具体的な計算方法の規定はありません。
ただし、税務調査員にどのような計算したかを聞かれた場合は説明する必要があるため、何よりも「客観性」を重視してください。
家賃やガス・水道費など、家事按分となる主な経費の概要と計算方法は以下の通りです。
家賃
家賃は、自宅兼事務所の場合、経費にすることができます。
自宅兼事務所とは、自宅住所を事務所・事業所として登録している状態のことです。
家賃の計算方法は下記の2通りの方法があります。
- 「面積」で計算する場合
- 「時間」で計算する場合
「面積」で計算する場合
(例)家賃10万円で20㎡の自宅に住み、そのうち4㎡を仕事用として使用している。
<計算式>
10万円×(4㎡÷20㎡)=2万円
面積で計算する場合、「2万円」が経費として計上することができます。
「時間」で計算する場合
(例)家賃10万円の自宅に住み、在宅時間18時間、そのうち9時間仕事をしている。
<計算式>
10万円×(9h÷18h)=5万円
時間で計算する場合、「5万円」が経費として計上することができます。
ガス・水道費
ガス・水道費などは「使用時間」や「使用日数」で計算します。
(例)自宅兼事務所を1ヶ月のうち150時間程度業務として使用しており、月のガス代が3,000円だった。
<計算式>
(1)150時間÷(24時間×30日)=0.25
(2)3,000円×0.25=600円
「600円」が経費として計上することができます。
電気料金
電気料金の計算方法は下記の2通りの方法があります。
- 「コンセントの数」で計算する場合
- 「使用時間」で計算する場合
「コンセントの数」で計算する場合
あらかじめ仕事用のコンセントを決めておき、その割合で計算することができます。
(例)家全体のコンセントが12個あり、そのうち3個を仕事で使用している。月の電気代は2万円。
<計算式>
(1)3個÷12個=0.25(仕事用コンセントの割合)
(2)2万円×0.25=5,000円
「5,000円」が経費として計上することができます。
「使用時間」で計算する場合
(例)1日のうち6時間(=25%)は仕事で使用している。
<計算式>
2万円×0.25(仕事で使用した時間の割合)=5,000円
「5,000円」が経費として計上することができます。
通信費
通信費(インターネットや電話料金など)の計算方法は「使用時間」で計算をします。
(例)月の携帯代が1万円で、仕事として使用する時間の割合が60%だった。
<計算式>
1万円×0.6=6,000円
「6,000円」が経費として計上することができます。
自動車関連費用
普段プライベートとして使用している車でも、仕事に使用した分は経費として計上することができます。具体的には、
- 車両本体の購入金額
- ガソリン代
- 駐車場代
- 交通費(高速代)
- 車両保険
- 車検費用
などが自動車関連費用の対象です。
家事按分の記帳方法
家事按分の記帳をしておくことで、経理処理の際のトラブルを防ぐことができます。
家事按分の記帳方法は、
- 毎月家事按分を行う方法
- 決算時に1年分まとめて家事按分を行う方法
の2つの方法があります。
ここでは、
・家賃10万円
・地代家賃(仕事用スペース)が30%で、事業主貸(プライベートスペース)が70%
のケースを例にして記帳方法を紹介していきます。
毎月家事按分を行う方法
これは、複合仕訳の場合の仕訳方法です。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2021年XX月XX日 | 自宅兼事業所の賃料 | 地代家賃 | 30,000 | 現預金 | 100,000 |
事業主貸 | 70,000 |
また、単一仕訳しかできない場合もあります。諸口を用いて単一仕訳をした場合は以下のようになります。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2021年XX月XX日 | 自宅兼事業所の賃料 | 諸口 | 100,000 | 現預金 | 100,000 |
家賃(経費分) | 地代家賃 | 30,000 | 諸口 | 30,000 | |
家賃(私用分) | 事業主貸 | 70,000 | 諸口 | 70,000 |
決算時に1年分まとめて家事按分を行う方法
決算時に1年分をまとめて家事按分を行う場合は、記帳の手間が省けるため比較的楽に記帳することができます。また、取引を分ける必要もないため複合仕訳と単一仕訳で悩まずに済みます。
毎月の記帳では、毎月の家賃を以下のように全て地代家賃として仕訳します。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
2021年XX月XX日 | 自宅兼事業所の賃料 | 地代家賃 | 100,000 | 現預金 | 100,000 |
そして、決算時を年末とした場合、年末の日付で1年分まとめて按分します。
「地代家賃」として計上している1年間の家賃の合計10万×12ヶ月=120万円のうち、事業主の生活分が70%(120万円×0.7=84万円)を「事業主貸」に振り替えます。
日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | ||
2021年12月31日 | 賃料の按分 (事業主貸70%) | 事業主貸 | 840,000 | 地代家賃 | 840,000 |
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今回は、「家事按分」について解説してきました。
記事内で紹介した計算方法を用いて計算し、それに基づき事業用の経費計算を行えば、法律上問題ありません。
ただ、青色申告と白色申告とでは、家事按分の認められる範囲が異なるため注意しましょう。
経費計上を正しく行うために、家事按分の方法や記帳の仕方をしっかり覚えておく必要があります。
もし、確定申告や決算などの経理代行、クラウド会計の導入支援について検討中でしたら、ハートランド税理士法人へぜひお気軽にお問い合わせください。
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監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。