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M&Aに関わる制度や税金は多岐に渡るため、独断で進めてしまうと正確な税金額が分からなかったり、税金の払い漏れによるペナルティを課せられてしまうといった恐れがあります。
そのため、M&Aを検討している方は必ず事前に税理士へ相談しましょう。
この記事では、実際に税理士へ相談する前に最低限知っておくべき、
- M&Aでの税理士の役割と業務範囲
- M&Aを税理士に相談するメリットデメリット
- 税理士に依頼した場合の費用の相場
の3点について解説します。
M&Aにおける税理士の役割
M&Aにおける税理士の役割は、
「M&Aに掛かる正確な金額を算出すること」
です。
M&Aでは、税率や計算式も状況によって異なるため、税金周りに詳しくない人が正確に納税額を計算するのは困難です。
実際に納税すべき金額から大きくかけ離れていると、税務調査の対象になる恐れもあります。リスク回避のためにも、M&Aは税理士に相談しながら進めていきましょう。
税理士の業務範囲
税理士のM&Aにおける業務範囲は以下の3つです。
バリュエーション
バリュエーションとは、対象となる事業の価値が適切かどうかを判断するための指標を図ることです。バリュエーションは、事業を譲受する企業と譲渡する企業でともにおこないます。
逆に言えば、税理士によるバリュエーションが終わってからでないと、M&Aを実施できるかどうかは判断できません。
財務・税務デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、M&Aの対象となる事業の価値やリスクをあらゆる観点から調査する業務のことです。
デューデリジェンスには労務・ビジネス・ITなど様々な種類があり、税理士が行えるデューデリジェンスは財務・税務の2つです。
財務・税務デューデリジェンスの実施により、M&Aを検討している事業が金銭面においてリスクを抱えていないかを洗い出すことができます。
例えば、過去に金銭的トラブルを起こした事業をM&Aで買収した場合、トラブルの責任は譲受した企業が負うことになってしまいます。こうした事態を未然に防ぐために、M&A実施前に税理士が財務・税務デューデリジェンスを行うのです。
ファイナンシャルアドバイザリー(FA業務)
ファイナンシャルアドバイザリーとは、M&Aに関連する業務全体を支援を行うことです
具体的には、以下の業務を支援してくれます。
- 交渉先企業の選定
- 契約書の作成・調印
- 税務的観点からの事業へのアドバイス
このように、税理士は税金周りの専門知識をもとに、M&Aを成功させるために様々なサポートをしてくれます。
また、税理士はM&A以外にも、確定申告書の作成や創業融資の申請のアドバイス等も行っています。詳しくは以下の記事で解説しているため、気になる方はぜひご一読ください。
【関連】会社設立時には税理士に依頼すべき?やってくれる仕事内容やメリットを紹介
税理士にM&Aの相談をするメリット
M&Aは弁護士や銀行、M&A専門家など様々な専門家が相談窓口として請け負っています。そんな中で税理士にM&Aについて相談するメリットは4つあります。
- 適切な方法で節税対策ができる
- 妥当な価格で取引ができる
- 税務リスク・問題点を発見できる
- 税務に関してアドバイスを受けられる
それぞれ一つずつ解説します。
適切な方法で節税対策ができる
税理士にM&Aのことを相談すれば、適切な方法で節税対策ができます。
M&Aでは多額のお金が動くため、譲受した企業は、成立させた年に掛かる税金は例年よりも増えるケースがほとんどです。
そのため、税理士に相談せずにいると適切な節税対策が取れず、結果として余計なコストを支払うことになるでしょう。
とはいえ「会社に関する節税」のイメージは湧きにくいのではないでしょうか。そこで以下に会社を設立した際の節税方法を解説しているため、参考までにご一読ください。
【関連】会社設立することによって出来る8つの節税方法について解説
妥当な価格で取引ができる
妥当な価格で事業の売買ができるようになることも、税理士に相談するメリットです。
税理士は企業の価値を判定する“バリュエーション”も業務範囲であるため、事業価値の妥当性を判定することができます。
適正な価値が分かるようになることで、M&Aを行うべきかどうかの判断が客観的にできるようになるでしょう。
税務リスク・問題点を発見できる
税理士に相談することで税務関連におけるリスクや問題点を発見できます。
企業によっては過去に税務申告漏れがあったり、納税処理の誤りがあったりと、税金関連でのミスがあるかもしれません。
そうしたミスがM&A成立後に発覚してしまうと、買収先企業が追加の税金を支払う義務が生じます。
こうしたトラブルは、税理士の業務範囲の一つである“税務デューデリジェンス”によって回避可能です。
税務に関してアドバイスを受けられる
税理士は税金周りのプロであり、M&Aのあらゆる税務に関するアドバイスをもらえます。
M&Aに掛かる税金は、多額かつ非常に複雑です。そのため、素人では正確に計算することが難しいだけでなく、知らないうちに脱税してしまう恐れもあるでしょう。
税務署からのペナルティを未然に防げぐためにも、税理士にはM&Aの最初の段階で相談・依頼するのがおすすめです。
税理士にM&Aの相談をするたった1つのデメリット
税理士にM&Aの相談をする唯一のデメリットは
「M&Aの実務のサポートが難しい」
です。
税理士はあくまで財務・税務関係のプロであって、M&Aそのもののプロではありません。そのため、M&A全体のプロセスについてのアドバイスはできません。
税理士に相談するのは税金関係のことに絞り、実務関係についてはM&A専門家の方に相談したほうがいいでしょう。
税理士にM&Aを依頼する場合の費用・報酬相場
税理士にM&Aのことを依頼するにあたって、費用がいくら掛かるのか気になるところですよね。税理士にM&Aの相談をした場合に掛かる費用を解説します。
報酬体系は業務範囲によって異なり、各項目ごとに報酬が設定されています。
バリュエーション
バリュエーション業務の費用は50~100万円ほどになります。
こちらは事業規模によって費用が変動するため、実際にいくら掛かるのかは前もって確認する必要があります。
財務・税務デューデリジェンス
税理士にデューデリジェンス業務を依頼する場合、費用の相場は1項目につき50~100万円ほどです。
調査範囲によって相場以上もしくは以下の金額になることもあり、小規模案件であれば30万円くらいで済むこともあります。
ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリー業務ではM&Aによって発生した取引額に応じて、費用が変動します。一般的に“レーマン方式”という料金体系を採用している事務所が多く、下記のように取引金額に応じて報酬料率が異なります。
取引金額 | 報酬料率 |
〜5億円 | 5% |
5〜10億円 | 4% |
10〜50億円 | 3% |
50〜100億円 | 2% |
100億円〜 | 1% |
例えば、取引額70億円のM&Aが上記の料金設定で成立した場合、ファイナンシャルアドバイザリー報酬は以下の通りになります。
取引額の範囲 | 報酬料率 | 報酬額 |
~5億円未満の分 | 5億×5% | 2,500万円 |
5億円以上10億円未満の分 | 5億×4% | 2,000万円 |
10億円以上50億円未満の分 | 40億×3% | 1億2,000万円 |
50億円以上100億円未満の分 | 20億×2% | 4,000万円 |
合計額 | 2億500万円2億500万円 |
70億円の取引額でM&Aが成立した場合、ファイナンシャルアドバイザリー報酬だけで2億500万円となります。
まとめ
税理士に相談しながらM&Aを進めるメリットは、以下の4つです。
- 節税対策ができる
- 妥当な価格で取引ができる
- 税務リスク・問題点を発見できる
- 税務に関してアドバイスを受けられる
M&Aの取引額によっては税理士への報酬も高額になるため、依頼するのに抵抗がある経営者の方もいるかもしれません。しかし、M&Aは動く金額が大きいだけでなく、課税の仕組みも複雑です。
税理士に依頼すれば、正確な節税対策ができるだけでなく、税金関連のトラブルも未然に防げます。
そのため、M&Aにおける税理士への相談は、ある意味必須事項とも言えるでしょう。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。