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会社を設立する際に頭を悩ませるのが役員報酬ではないでしょうか。
会社設立にあたり、いつから支払いを開始すれば良いのか、支給金額はどうするかなど、さまざまな事項を決めなくてはなりません。
しかし、役員報酬は支給時期や金額など法律上のルールが定められているため、社長の一存で決められないことも多々あります。
この記事では、
- 役員報酬とは
- 役員報酬を損益参入する方法
- 役員報酬を決定する3つのポイント
- 役員報酬を支払う際の注意点
などについて解説していきます。
役員報酬とは
役員報酬とは、会社設立時に決定した取締役や執行役、監査役などの役員に対して支払われる給与のことです。
役員報酬は、以下の方法により金額を決めることが会社法で定められています。
- 定款への規定
- 株主総会での決議
ただし、定款に役員報酬を規定してしまうと、報酬金額を変更するたびに定款変更を行わなくてはなりません。
定款変更には株主総会の特別決議(※1)が必要となるため、通常は株主総会の普通決議(※2)により役員報酬を決定します。
[※1 特別決議(会社法309条2項)とは、議決権総数の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもってなす決議のこと] [※2 普通決議(会社法309条1項)とは、議決権総数の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもってなす決議のこと]取締役会を設置している会社では、株主総会で役員報酬の総額だけを決議し、役員ごとにいくら支給するかは取締役会に一任することが可能です。
一度株主総会で報酬金額が決議されたら、その後は毎年決議を行う必要はありませんが、報酬額が変動する場合は再度決議が必要となります。
役員報酬を損金算入する方法とは
法人税の支払いを少しでも少なくするため、役員報酬を高額に設定して会社の利益を下げようとする社長もいます。
しかし、法人税法では役員報酬を増減することで会社の利益を調整できないよう、役員報酬や役員賞与に対して損金参入に制限をかけています。
役員報酬は原則として、1年間報酬金額を固定にしなければ損金として認められませんが、毎月固定の支給であれば、全額損金として算入できます。
役員報酬を損金算入できるかどうかで、法人税額が大きく変わってきます。そのため、まずは損金とは何かを理解しておきましょう。
そもそも損金とは?
損金とは、法人税を計算する際に収益から差し引く費用(原価・費用・損失)のことを指します。
法人税がかかる益金から損金が引かれることで、法人税額を抑えることが可能です。
従業員に支払う給与や賞与は全額損金となりますが、役員報酬は原則として損金不算入です。役員報酬が損金として算入されないということは、経費計上ができず、利益にその分だけ役員報酬が上乗せされるため、法人税額も同様に上がるということになります。
しかし、一定の条件を満たせば役員報酬を損金に算入させることが可能となり、法人税を節税することができます。
損金として認められる3種類の給与
税務上、損金算入として認められている役員報酬は、以下3種類の支払い方法のいずれかに該当する場合です。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
ただし、不相当に高額な部分の金額については損金として認められないため、注意が必要です。それぞれの給与の内容は以下のとおりです。
定期同額給与
定期同額給与とは、1カ月以下の期間を定め、事業年度中に定期的に支払われる給与のことです。
事業年度開始月が4月であれば、4月から翌年3月まで毎月同額の給与を役員報酬として支給することで、損金算入できます。
ただし、役員報酬(定期同額給与)を変更できるのは、原則として事業年度開始から3カ月以内と決まってます。そのため、会社の業績が増減したとしても、事業年度中に報酬金額を増減することはできません。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、所定の時期に役員へ支給される給与のことです。
役員に支払われる賞与のようなもので、事前に支給時期と金額を定め、税務署に届出書を提出する必要があります。
ただし、支給日が1日でもずれてしまったり、支給額に1円でも違いがあった場合、全額損金として認めてもらえなくなります。
利益連動給与
利益連動給与とは、同族会社に該当しない会社が、その事業年度の利益に関する指標を基準にして支払われる給与のことです。
適用されるのは有価証券報告書を提出している会社に限られるため、大企業向けの給与といえます。一般的な中小企業は同族会社にあたるため、1人社長のみの会社などは利益連動給与の対象外となります。
損金として認められる役員報酬の決定時期
役員報酬は、会社設立日から3カ月以内に報酬金額を決めなくてはなりません。
たとえば、事業年度の開始日が4月1日だった場合、6月30日までに手続きを完了すれば良く、会社設立後の3カ月目から役員報酬を支払い始めることも可能です。
役員報酬の支払いを遅めに設定できるのであれば、売上が安定する半年後から支給を開始したいと思うかもしれません。
ただし、その場合は役員報酬を損金として算入できなくなります。
役員報酬の金額を決定する3つのポイント
役員報酬は損金算入できる範囲内で決めなくてはなりませんが、金額はどのようにして決めれば良いのでしょうか。
役員報酬の報酬金額決定方法について、3つのポイントをお伝えします。
1.利益計画から決める
役員報酬を決める方法のうち、もっとも理想的な方法がこちらです。
会社の利益予測を行い、利益の範囲内で報酬金額を決め、残りの利益は会社に蓄積し内部留保とする方法です。
利益計画を踏まえて役員報酬額を決める場合、利益計画がどのような根拠に基づいているのか、正確に作成されているかがポイントとなってきます。
2.希望額から決める
役員報酬は、社長自身で金額を決めることも可能です。
自分の希望の金額で報酬額を決め、それに合わせて経営を行おうとする意気込みも重要です。
しかし、設立間もない会社は売上の見込みが立っていないことも多く、希望どおりの役員報酬を支払えないことがあります。
そのため、会社設立直後は自分の希望額で報酬金額を決めるのではなく、きちんと利益計画を立て、そのうえで報酬金額を決めたほうが良いでしょう。
希望額で役員報酬を決めたい場合は、無事に設立1期目を迎えることができてからのほうが現実的だといえます。
3.上限バランスを考えて決める
一人社長で株式をすべて一人で保有している場合、第三者に経理帳簿や経営情報を開示する必要がないため、自由に金額を決めることができます。
一人だけで経営している会社であればそれでも問題ありませんが、社員のいる会社で好きなだけ報酬金額を決めていると、社員の不平不満が溜まり、会社経営に支障をきたしてしまうこともあります。
一般的に、社員と役員の報酬の差が20倍以上になると、社員からの不平不満が生じやすくなるといわれています。
たとえば、社員の最低年収が300万円とした場合、役員報酬の総額が6000万円以下であれば、上限バランスが適正であるということになります。
役員報酬を支払う際の注意点
役員報酬が株主総会で決議されたあとは、いつからでも支給を始めることが可能です。
ただし、役員報酬には日割りという概念がないため、決定した支給日に近かったとしても、日割りで支給することはできません。
たとえば毎月1日に支給することが決定した場合、役員報酬決議の日付が5日であっても25日であっても、決議された報酬金額を支払わなくてはなりません。
もし日割りで計算して支給した場合、その金額が役員報酬の基準額とされてしまい、翌月から基準額を超えた金額に対しては損金不算入となってしまうので注意が必要です。
損金 | 詳細 |
不算入 | 決議された役員報酬額×{(その月の日数-決議日)÷その月の日数} を支給した場合、これを超えた金額は損金として算入されない |
算出 | 決議された役員報酬額を支給した場合は全額損金として算出される |
まとめ
役員報酬をいくらに設定するかによって、支払うべき法人税額が大きく変わってきます。
会社設立直後は少しでも役員報酬を得たいと思うかもしれませんが、税金や利益金額のことを考えずに報酬金額を決めてしまうと、資金繰りが苦しくなることや従業員の不満が発生することも考えられます。
役員報酬を決める際は、きちんとした利益計画を立てられるよう、まずは税理士などのプロに相談してみてはいかがでしょうか。
また、役員報酬に関わらず、会社設立や経営上で何かお困りのことがあれば、私たちハートランド税理士法人の無料相談をぜひご活用ください。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。