<この記事は約 7 分で読めます>
個人事業主は、開業時に登記が義務付けられていません。しかし、開業届には法的な拘束力や証明力がないため、記載した屋号はあくまでも自称になります。
そんな個人事業主の屋号を守るためにあるのが、商号登記という制度です。
商号登記とは、一言でいうと「個人事業主が屋号を登記すること」です。
この記事では、
- 商号登記のルール
- 商号登記のメリット・デメリット
- 商号登記に必要なものと申請手順
- 商号登記の変更方法
などの項目について解説していきます。
商号登記のルール
冒頭でもお伝えした通り、商号登記とは、個人事業主が屋号を登記することです。
商号登記には一定のルールがあり、どんな屋号でも登記できるというわけではありません。ここからは、商号登記のルールについてみていきましょう。
使用できる文字・できない文字
商号登記には、使用できる文字とできない文字があります。使用できるのは、以下の文字です。
- ひらがな
- カタカナ
- 漢字
- ローマ字(大文字・小文字)
- アラビア数字
- 符号(&、-、・、,など)
上記に含まれない、ローマ数字(ⅰ、Ⅱ、ⅲなど)、カッコ(「 」( )【 】など)、ハングルなど外国の文字は商号に使用できません。
また、以下の言葉も使用を禁止されています。
- 銀行、生命保険、信託といった、業種を誤認させるような言葉
- 下品な言葉・差別用語など、公序良俗に反する文字・言葉
- ○○営業所、○○支店など
- 世間一般に知られているほど有名な企業と全く同じ商号
これらは商号登記だけではなく、登記しない屋号にも共通しているルールです。
商号登記と商標登録
商号登記をしてもその名称に独占権は生じません。
商号登録のルールは基本的に、「同一所在地で同一の称号を使うことはできない」のみだからです。そのため、住所が違えば同じ商号の事業が存在することもあります。
ただし、商標登録をしている名称には独占権があるため、その名前を商号登記することはできません。
商号登記は法務局、商標登録は特許庁と、管轄も異なります。
商号登記のメリットとデメリット
次に、商号登記のメリットとデメリットをみていきましょう。
商号登記の2つのメリット
信頼性が高まる
商号登記をすることによって、事業の信頼性が高まります。
商号登記をすると、屋号や代表者氏名などの情報が一般に公開されるため、きちんと事業を営んでいる個人事業主であることを他者に証明できます。
屋号を法的に保護できる
商号登記をしていないと、屋号はあくまでも自称となってしまい、その名称を名乗る根拠がありません。
商号登記をおこない、法的な後ろ盾を持っておくことが、自分の屋号を守ることにも繋がります。
商号登記の2つのデメリット
費用がかかる
商号や代表者氏名などを登記すると、項目ごとに登録免許税が発生します。
商号登記にかかる登録免許税は3万円です。
さらに、登記をしていない屋号は後から無料で変更することもできますが、一度商号登録をした屋号は変更する際にも費用がかかります。
手続きに時間と手間がかかる
商号登記をおこなうには、自力で書類を作成して提出しなければなりません。
決まった書類のフォーマットがないため、一から作成することになります。
商号登記をしない場合、個人事業主の開業は開業届1枚で済むため、商号登記をすると手続きが複雑になってしまうのがデメリットです。
商号登記に必要なものと申請手順
手続に必要なもの
商号登記の手続きに必要なものは、以下の6つです。
- 個人の実印
- 実印の印鑑証明書
- 印鑑届出書
- 商号登記申請書
- 登録免許税(3万円)
- 屋号印、商号印(あれば)
印鑑証明には、事前に印鑑登録が必要です。お住まいの市区町村役所に、前もって印鑑登録の届け出をしておきましょう。
商号登記申請書には法務局が定めているフォーマットはないため、一から自力で作成するか、ネット上で配布されているフォーマットをダウンロードして使いましょう。
「商号登記申請書」に記載する内容と作成のポイント
商号登記申請書には、以下の内容を記載します。
- 商号
- 営業所の住所
- 登記の事由
- 登記すべき事項(商号・営業所・住所・氏名・営業の種類・登記記録に関する事項)
- 日付
- 申請人の住所・名前・電話番号
- 宛名(管轄の法務局)
「登記の事由」と「登記記録に関する事項」には、新たに商号登録をする場合は「新設」と記載します。
唯一注意するべきなのは「営業の種類」という項目です。
ここには業務の内容を記載しますが、その種類は多岐に渡りです。そのため、法務局に提出する際に、申請窓口で何と書けば認められるか相談するのがおすすめです。
また、商号登記申請書には3万円の収入印紙を貼り付けます。収入印紙は一度貼ってしまうと剥がすことができません。内容に不備がないかどうか法務局の職員に確認してもらってから、提出直前に貼り付けましょう。
商号登記の申請手順
商号登記申請手順は以下の通りです。
- 印鑑登録・証明書の取得する
- 商号登記申請書を作成する
- 法務局に持参し、職員の確認を受ける
- 窓口に提出する
商号登記申請書の内容は空欄でフォーマットを作成しておいて、職員に確認しながら記入するのがおすすめです。記載内容や捺印場所、収入印紙の貼り付け方などを詳しく教えてくれるため、確実に正しい申請書を作成できます。
商号登記の変更方法
商号登記の変更方法は、基本的に商号登記の場合と同じです。
変更後の屋号を記載した申請書を作成し、法務局に提出します。一度目の商号登記時に屋号印を登録している場合には、新しい屋号印の登録も必要です。
また、商号変更登記の際には登録免許税として3万円がかかります。
まとめ
商号登記は、個人事業主が自分の屋号を守るための手続きです。
商号登記をすることで、屋号や代表者氏名を広く公開することができ、社会的な信用度の向上が見込めます。
屋号を長く使い続けたい方や社会的信用度を向上させたい方は、ぜひ商号登記を検討してみてください。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。