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故人から相続した財産に課せられる「相続税」は、基礎控除額によっては負担がなくなるかもしれません。
しかし「基礎控除額はどう求めればいいのか」「相続税の申告がいらないのはどんな時か」など、疑問に感じることも多いでしょう。
そこでこの記事では、以下のことを解説します。
- 相続税における基礎控除とは
- 相続税の申告が必要なケース
- 特例を使った場合は「0円申告」が必要
- 相続税の基礎控除の計算方法
- 基礎控除以外の控除枠
- 相続税の基礎控除の注意点
相続税と基礎控除について疑問がある方は、ぜひご一読ください。
相続税における基礎控除とは

そもそも相続税は、財産を相続した人にかかる税金のことです。
非課税のものや債務・葬式の費用を差し引いたものにかけられます。
その中でも「ここまでは相続税がかからない」という金額が定められており、それが基礎控除です。
相続税が基礎控除以下なら、税金はかかりません。
つまり支払う相続税は、遺産から基礎控除を引いたものということです。
相続税が0円であれば、相続税申告は基本的に不要です。
相続税の申告が必要なケース
相続税の申告は、相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に必要となります。
しかし、基礎控除額以下であっても、特定のケースでは申告が必要になることがあります。
以下は相続税等の申告をしなければならないケースですので、当てはまる事象がある方は注意してください。
相続した不動産・株式を売却した場合
相続した不動産や株式を売却した場合、譲渡所得税の確定申告が必要になることがあります。
譲渡所得とは、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた利益のことです。
不動産や株式を相続したものの、今後の生活を鑑みて「現金化したい」と考える方は少なくありません。
しかし、相続した不動産や株式を売却して利益が出た場合はその利益に対して所得税がかかるため、売却日の翌年3月15日までに確定申告をしなければなりません。
不動産の場合は所有期間によって税率が変わるうえ、3,000万円の控除を受けられる可能性もあります。
相続した遺産を寄附した場合
相続した遺産を国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄附したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
寄附をしたら必ず確定申告をしなければならないというわけではありませんが、寄附を行う先によっては相続税の控除が受けられる可能性があるため、節税対策につながります。
具体的には国や都道府県、市区町村をはじめ、学校法人や公益財団法人、政党などが対象です。
寄附によって確定申告を行う際は寄附した団体から交付される受領証を確定申告書に添付するのを忘れないようにしましょう。
相続した遺産が収入を生む場合
相続対象となる遺産は不動産や株式など人によってさまざまでしょうが、相続遺産が収入を生む場合には確定申告が必要です。
例えば、相続した不動産を賃貸物件として賃料を収入として得る・株式の配当金を受け取るなどが起こった場合、「相続した遺産が利益を生んだ」とみなされます。
利益が生まれると利益分に所得税が課されるため、確定申告の対象となります。
この際、遺産について遺言書で「誰に何を相続する」と記されていれば、譲り受けた人が確定申告をします。
しかし、被相続人が収入を生む遺産を誰に渡すか指定していなかった場合、遺産分割協議が終わるまでは相続人全員の共有財産となります。
そのため、例えば賃貸物件による収入の場合は賃料を法定相続分で分割し、その部分について各自で確定申告をしなければなりません。
相続した遺産をすべて現金化した場合
相続した遺産をすべて現金化し、相続人間で分割することを「換価分割」と呼びます。
現金化することで公平な遺産分割が可能なうえ、相続財産の評価を巡ってトラブルが起こりづらいなどのメリットが多くあります。
不動産や株式を売却して得た現金は「収入」とみなされ、利益部分に所得税がかかります。
相続発生後に換価分割が行われた場合、売却益は相続発生日からその年の12月31日までの収入として扱われ、相続人は翌年の3月15日までに確定申告を行う必要があります。
死亡保険金・未支給年金を受け取った場合
死亡保険金や未支給年金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になる場合があります。
まず死亡保険金ですが、所得税の課税対象となるのは保険料の支払者と保険金受取人が同じ人物の場合です。
保険金受取人が死亡保険金を受け取った場合、所得税・相続税・贈与税のいずれかがかかりますが、被保険者・保険料の支払者・保険金受取人が誰であるかでかかる税金の種類も変わります。
死亡保険金は雑所得もしくは一時所得として扱われますが、受け取りの方法により扱われ方が異なります。
そして、未支給年金も相続人の一時所得として取り扱われるため、確定申告が必要です。
ただし、一時所得には50万円の特別控除があるため、未支給年金を含めて被相続人が亡くなった年の一時所得が50万円以下の場合は、申告をしなくても問題ありません。
特例を使った場合は「0円申告」が必要

相続税にはひとつ例外があり、基礎控除ではなく特例を使って相続税を「0円」にした場合は「0円申告」が必要です。
0円申告が必要になる特例は複数あり、活用する場合は期限10ヵ月以内の申告が必須です。忘れないように気をつけしましょう。
【参考】国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
相続税の基礎控除の計算方法

基礎控除を計算することで、相続税の申告が必要かどうかを判断できます。
金額によっては基礎控除を下回り、申告不要の場合もあります。
しかしどのように基礎控除を計算すればいいか、分からない方もいるでしょう。
そこでここからは、相続税の基礎控除の計算方法を解説します。
- 法定相続人の人数を確定
- 基礎控除額の算出
- 相続財産の把握
- 相続財産の総額を算出
- 相続財産の総額と基礎控除を比較
順番に見ていきましょう。
1.法定相続人の人数を確定
まずは、法定相続人の人数を確定させましょう。
法定相続人とは法律で定められた相続人のことで、被相続人(財産を残し亡くなった人)との関係によって順位が変わります。
法定相続人に定められた順位を以下の表にまとめました。
第一順位の相続人 | 相続人の子 |
第二順位の相続人 | 直系尊属(父母・祖父母など)と配偶者 子とその直系卑属(子や孫)がいない場合に該当 |
第三順位の相続人 | 兄弟姉妹と配偶者 子とその直系卑属がなく、直系尊属も死亡している場合に該当 |
基本的に配偶者は法定相続人の中で優先されており、その他は子ども・両親や祖父母、兄弟姉妹の順です。
ただ第三順位の相続人に関しては、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合は、その方の子(甥・姪)が相続人となります。
仮に兄弟姉妹の子ども2人のうち1人が孫を残して亡くなると、代わりに孫が相続人です。
これを「代襲相続」と言います。
法定相続人の人数が変わると基礎控除額も変化するので、正しく把握しましょう。
2.基礎控除額の算出
法定相続人の数が確定したら、基礎控除額を計算できます。
計算式は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算式】
・3,000万円+(600万円✖️法定相続人の数)=基礎控除額
仮に法定相続人が3人いた場合は、3,000万円+(600万円✖️3)で4,800万円が基礎控除額ということです。
相続税がこの金額を下回るようなら、申告手続きはいりません。
相続人が多いほど控除額が増えるので、申告不要の可能性が高まります。
3.相続財産の把握
税金の対象となる相続財産を把握しましょう。
相続財産の中には相続税の対象ではないものもあるため、計算から外す必要があります。
相続税の対象と除外すべき財産を以下の表にまとめました。
相続税の有無 | 該当する財産 |
相続税の対象となるもの | ・現金、預金(自宅にある現金、被相続人名義の預貯金など) ・有価証券、金融派生商品(株式、国際、投資信託など) ・生命保険金、退職金 ・結婚、子育ての資金 ・各種動産(車や貴金属) ・不動産と権利(土地や農地) ・著作権 |
相続税の対象とならないもの | ・葬儀費用 ・借金、未払金 ・保険金(被相続人の死亡保険や損害保険) ・国や自治体に寄付した財産 ・その他(未納の税金、保証人や連帯人の地位) |
上記の表のとおり、被相続人の死亡により支払われる保険金は、生前の財産ではなので相続税の対象外です。
しかし被相続人が保険料を負担していたものは「みなし相続財産」といい、相続税が課せられます。
また、被相続人の死亡で支払われる退職手当金も、みなし相続財産に当てはまります。
4.相続財産の総額を算出
相続財産をすべてまとめ、総額を算出しましょう。
「相続税の対象となる財産」から「課税対象外の財産」を引いた金額が遺産総額となり、相続税が課せられます。
5.相続財産の総額と基礎控除を比較
最後に相続財産の総額と基礎控除額を比較します。
相続財産の金額が基礎控除以上であれば、相続税の申告が必要です。
逆に基礎控除額の方が多いなら、申告手続きはいりません。
また、相続財産が基礎控除額以下でも、前述した0円申告がいることがあるのでよく確認しましょう。
基礎控除以外の控除枠を6つ紹介
相続税には、基礎控除以外にも様々な控除枠があります。
これらの控除枠を適切に活用することで、相続税の負担を軽減できます。
これらは代表的な控除枠ですので、ぜひ節税にお役立てください。
未成年控除
相続人が未成年者である場合、一定の金額が相続税から控除されます。
具体的には、未成年者が満18歳になるまでの年数に応じて、1年あたり10万円が控除されます。
未成年者が成年に達するまでの間の養育費の負担が考慮された背景により、この控除制度が生まれました。
障害者控除
相続人が障害者である場合、障害の程度に応じて一定の金額が相続税から控除されます。
障がい者が満85歳になるまでの年数に応じて、1年あたり10万円または20万円が控除されます。
障がい者は健常者よりも多額の医療費や療養費、さらには生活のサポート資金が必要になると想定して生まれた制度です。
配偶者の税額軽減
配偶者が相続した場合、配偶者が相続した遺産の額が1億6,000万円以下であれば、相続税はかかりません。
また、1億6,000万円を超える場合でも、配偶者の法定相続分相当額までは相続税を支払う必要はありません。
基本的には相続税の申告期限までに財産を分割しておかなければこの控除を使えませんが、例外として「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、申告期限より3年以内に分割したときには対象となります。
暦年課税分の贈与税額控除
相続開始前7年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、相続財産に加算されます。
そして、贈与時に贈与税を支払っていた場合、支払った贈与税額を相続税額から控除することができます。
小規模宅地等の評価減の特例
被相続人が居住用や事業用に使用していた宅地を相続した場合、一定の要件を満たすことで、宅地の評価額を最大80%減額することができます。
この特例を用いた場合、先述した「0円申告」に当てはまるため、期限までに確定申告をするのを忘れないようにしましょう。
相次相続控除
10年以内に2回以上相続が発生した場合、一定の金額が相続税から控除されるしくみです。
ただし、被相続人の相続人であることはもちろん、該当する相続の開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得したうえで、相続税が課されていることが条件です。
相続税の基礎控除の注意点

相続税の基礎控除については、いくつか注意すべきことがあります。
法定相続人の基準は、家族構成といった状況によって変化するためです。
相続税の基礎控除の注意点は、以下のものです。
- 遺言による相続人は「指定相続人」となる
- 相続放棄をしても「法定相続人」と扱われる
- 相続するのが養子だと法定相続人のカウントが制限される
- 排除・欠格者がいる場合は代襲相続人を「法定相続人」として計算する
順番に見ていきましょう。
1.遺言による相続人は「指定相続人」となる
遺言で決められた相続人は「指定相続人」となり、財産を「指定相続分」として受け取る権利があります。
また、遺言で指定されなかった法定相続人にも「遺留分」という取り分が留保されており、遺産を受け取れます。
遺留分についても順位が定められており、第一順位相続人からの受け取りです。
2.相続放棄をしても「法定相続人」と扱われる
財産相続を放棄した人も、法定相続人とみなされます。
放棄したことで他の人に相続が移っても、その人は法定相続人とは扱われません。
財産の相続権は、放棄した人に残っています。
そのため、財産がしっかり相続されるまで管理しておく義務があります。
また、財産相続の放棄は、1度行うと撤回できません。
後で相続したい財産が見つかったとしても受け取れないので、相続放棄は注意して行いましょう。
3.相続するのが養子だと法定相続人のカウントが制限される
財産を養子が相続する場合、法定相続人のカウントは制限されます。
相続する養子の人に実子がいなければ、法定相続人のカウントは2人までです。
逆に実施がいる場合は、実子+1人まで法定相続人として数えられます。
4.排除・欠格者がいる場合は代襲相続人を「法定相続人」として計算する
法定相続人に排除・相続欠格者がいた場合は、その人の子や孫(代襲相続人)を「法定相続人」として計算します。
相続人を排除されるのは、被相続人を虐待していたなど著しい非行があった場合です。
相続欠格とは、相続人として不適切と判断された人のことをいいます。
詐欺や脅迫で自分に都合のいい遺言書を作るといった行為をすると、欠格者となり法定相続人から外されます。
そのため、排除・欠格者がいたとしても、法定相続人の数は変わりません。
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今回は、相続税と基礎控除について解説してきました。
相続税は必ず支払わないといけないわけではなく、基礎控除額によっては不要となります。
ただ0円申告に該当し、申告手続きが必要なこともあるので注意が必要です。
相続税については複雑な内容が多く、疑問に感じてしまうことも多いでしょう。
疑問点があるなら、専門家に相談したほうが間違いのない手続きを行えます。
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監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。