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日本政策金融公庫には、国民生活事業や中小企業事業といった部署が設けられており、新企業育成貸付といった様々な融資制度があります。
今回は、短期の運転資金も取り扱っている「国民生活事業」の融資について触れてみます。
1.国民生活事業での新企業育成貸付の融資制度とは
融資制度全体においての融資対象は、主に個人や小規模レベルの会社を対象におよそ700万円が平均融資額となっています。
新企業育成貸付には、
- 「新規開業資金」
- 「女性、若者/シニア起業家支援資金」
- 「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」
- 「新事業活動促進資金」
- 「中小企業経営力強化資金」
の5種類の制度があり、融資額は最大7,200万円にもなります。
ここでは初めて起業する人を対象にした「創業融資」を考えていきますので、
- 廃業からの再度の起業を扱う「再挑戦支援資金」
- 承認されるレベルでの事業計画の策定や事業展開後の認定支援機関とのやりとりが必要な「新事業活動促進資金」「中小企業経営力強化資金」
については触れずに
- 「新規開業資金」
- 「女性、若者/シニア起業家支援資金」
について考察していきます。
2. 新規開業資金を利用した融資とは
融資対象となるのは、下記の通りです。
- 雇用の創出を伴う事業を始める方
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
2-1. 雇用の創出を伴う事業
起業する上において、新規開業資金を受ける条件の一つとして雇用を創出することが挙げられます。
雇用の創出とは、事業の形態が複数の人による運営を必然に生み出すものであり、起業することによって人を雇うことにつながることです。
2-2. 起業の業種が現在の勤務先と同業種
現在まだ雇用されている状況で起業予定がある場合の業種が勤務先の業種と同業種の場合、起業後においての事業運営のノウハウが異業種に比べて蓄積されていることになります。
融資側の少しでも失敗する要因は減らしたい観点からも、同業種での起業は大切な条件となります。
2-3. 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて始める事業
産業競争力強化法とは国内経済再興のため、中長期に及ぶ自国産業の低迷を一転させ、発展へ押し上げるために「産業競争力強化」に向けて整備された法律です。
地方自治体などが国へ申請して「創業支援等事業計画」の認定を受けることで、認定された計画に定められている認定特定創業支援等事業を受けて事業を始めた場合、設立時の登録免許税の軽減や創業関連保証枠などの支援が得られることになります。
2-4. 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて始める事業
創業に対する融資の場合、事業の実績がありませんので、仮に融資審査に通り、資金を調達できたとしてもその金額は低く抑えられがちです。
そのような中で少しでも多く融資を受けたい場合には、日本政策金融公庫を単独で利用するよりも、民間の金融機関と合わせて2つ以上の金融機関を利用する協調融資で資金調達を行った方が有効です。
日本政策金融公庫側では、協調融資を行うノルマを抱えていると言われています。
そのような中、協調融資による申請の方が審査に通りやすいとも言われています。
民間金融機関は、日本政策金融公庫に対する業務連携の覚書を締結することで連携を取りやすくしています。
協調融資を利用することで、提携先の民間の金融機関の審査に通れば、日本政策金融公庫からも融資を受けられることにつながります。
3.女性、若者/シニア起業家支援資金を利用した融資とは
起業あるいは起業後概ね7年以内である、女性あるいは若者、シニアの事業経営者が融資の対象となります。
ここでは若者を35歳未満の人、シニアを55歳以上と定義しています。
資金の用途は起業時における必要な資金に限られます。
女性、若者/シニア起業家支援資金では、金利を抑えるなどで女性、若者、シニアの人たちが創業しやすい融資の枠を用意しただけであり、女性、若者、シニアだから借りやすいということではありません。
ここでは、女性、若者、シニアごとに資金を調達するための自分の強みを活かす方法について触れていきます。
3-1.女性の事業経営者の強みを活かす
女性ゆえの強みのある事業が存在するということはありません。
例えばネイリストや美容関連、マタニティー関連や子育て等が得意な男性は数多くいます。
反対に建設事業で数多くの実績をあげている女性経営者も少なくありません。
しかし審査を受ける上で、起業後の事業経営が確実であり、集客の見通しも明るいことを示すにはある程度、世間の既成概念に沿うことも必要です。
女性経営者が創業する上で過去の実績を問われることはありませんが、事業を立ち上げた後の収益の見込みの説明を求められることはあります。
起業する事業に女性経営者が多い、むしろ男性経営者はほとんどいないといった業種の場合には今後の集客や収益化の見込みを説明する上で審査の担当者を納得させることができます。
仮に女性経営者が、男性経営者が多い事業分野において突出した才能を持っていたとしても、女性、若者/シニア起業家支援資金を利用する以上は担当者の固定観念で審査が覆されることもありますので、そのような場合は別の制度を考えた方がよいでしょう。
3-2.若者の事業経営者の強みを活かす
若者の事業経営者にとって、今の時代は比較的に強みを出しやすい状況にあるといえるでしょう。
特にIT関連技術の進歩には凄まじいものがあり、ビジネスモデルや事業経営の概念すら既存の事業には存在しなかったものが生み出されていることも多々あります。
若者が自分の強みを出すためには、最先端の概念を要する事業分野に携わるのがお勧めです。
反対に昔から存続する事業で、その道のベテランが市場を席捲しているような状態では、経験不足として片付けられてしまうことも否めません。
審査の担当者は、融資した資金が確実に回収できるかどうかに重きを置いているため、むしろ新しい概念による事業の運営で、未知の顧客の集客見込みを具体的に説明することによって、突破口が開けてくることもあります。
3-2.シニアの事業経営者の強みを活かす
シニアの強みを活かすには、むしろ長い勤務経験により豊富な知識やノウハウが生きる事業に的を絞るのがよいでしょう。
現代は高度にマニュアル化された社会であり、未経験でも完備されたマニュアルによるステップを踏んだ研修で、実務に携わることができる業種も増えつつあります。
その一方で長年の経験を必要とし、職人の勘ともいえるレベルでの品質検査が求められている業種もまだ存在するのです。
そのような業種に、長年勤務して実績をあげてきたシニアが新たに事業経営者として起業することは大きな強みにつながります。
シニアにとって携わるべき事業分野は、昔から存在し、業界全体でノウハウが蓄積されつつある分野なのです。
そのような事業分野でこそ、経験と勘が豊富なシニアが求められ、強みを発揮しやすいのです。
反対にIT関連などの新しい分野での起業は若者の方が強みを持っているため、どれだけ説明しても審査に通らない結果になりかねません。
4.資金調達の詳しい専門家に依頼するのは否か
専門家に依頼すると、費用がかかるからやめておくという意見を耳にします。
金融機関への融資の申し込みにはたくさんの書類が必要です。
その中には、新規事業の事業計画書や各種書類(財務諸表など)が必要になります。
金融機関が融資しやすい財務諸表と税務署に出す財務諸表の書き方は別です。
なかなか経営者が個人で時間をかけても、よりよいものを作るのは非常に難しいでしょう。
また時間を費やしてしまう事もあり、私は専門家への依頼をおすすめします。
多少費用をかけたとしても、金融機関が納得する返済計画を含めた事業計画書を作ることが、資金調達のための何よりの近道になります。
本来なら、資金調達ができるのにもかかわらず、素人同然が書いたような書類をみて、融資を断られてしまっては非常にもったいないのではないでしょうか。
一度、自身の事業は、資金調達が可能なのかを専門家に相談し、現状を診断してもらうことをお勧めします。
5. まとめ
日本政策金融公庫の国民生活事業の新企業育成貸付の中で、今回取り上げた新規開業資金を利用した融資では、雇用の創出や起業時の業種の種類、創業支援の受け方、協調融資などの様々なポイントがありました。
その中で女性、若者シニア起業家支援資金の場合は、創業しやすい枠の中で強みをいかにアピールできるかということがポイントとなっていきます。
いずれの制度を利用するにしても、起業後に収益化への見通しを立てることができ、融資された資金を返済できる能力があることを審査担当者に伝えることが重要です。
融資獲得の可能性をあげるためにも、ぜひ資金調達の情報に詳しい専門家にご相談することをおすすめします。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。