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ご存知の通り、資本金が1円からでも株式会社の設立は可能ですが、実質1円企業は難しいです。
総務省の統計調査によると、資本金の平均額は約300万円。
しかし、いざ資本金を決めるとなると何に資本金が必要になるのか、また一体何を基準にして資本金を決めればいいのか分からないという問題があります。
そこでこの記事では、資本金の概要に加え、会社設立にあたり資本金が必要になってくる理由を
- 起業資金
- 社会的・対外的信用
- 節税
という3つのポイントに分けて解説していきます。
資本金の概要や平均額は?資本金を決めたあとは借入や融資で資金調達を
資本金とは、起業する時点で自分で持っている運転資金のことです。
資金調達の方法である借入(融資)や出資にも、この資本金の額が影響します。
1.会社法によると資本金は1円でも起業は可能
平成18年5月までは、株式会社を設立するには1000万円の資本金が必要とされていました。現在では、業種によって許認可に必要な最低ラインもありますが、1円からでも株式会社の設立が可能です。
しかし現実的には、1円で起業をしたとしても事業が波に乗り利益が出るまでの資金繰りに困ることは目に見えています。
また資本金というものは単にお金としての役割をするだけではありません。お金とは信用を数値化したものなのです。つまり資本金とは会社の信用に繋がります。
もちろん、会社の信用を判断する材料としては売り上げ、利益、従業員数、社歴など様々なものがあり、資本金だけで判断されることはありません。
ですが、資本金が有るのと無いのでは会社の信用は明らかに変わります。信用があると、例えば会社として新しく事業を始める際に、金融機関にお金を借りるといった選択肢も生まれるため、信用は会社の成長に大きく関与してきます。
ですので、1円から起業をするのではなく、自分の会社に見合った資本金を整えてから会社を設立することがオススメです。
2.資本金の平均額は300万
では、実際どれぐらいの資本金が必要になってくるのでしょうか?
ひとつの指標として、資本金が200万〜500万円の法人数が1番多く、平均額は300万円という統計結果があります。
会社設立当初に人件費、材料費、施設費といった費用がかからないのであれば、資本金の設定額は低く見積もっても良いかもしれません。しかし設立当社からすぐに利益が確保されており、資金の運用が必ず上手くいく訳ではありません。
十分な資金が確保されていなければ、資金繰りに手がかかります。資金繰りに労力をかけることになれば、事業に十分な時間をかけられず、全ての効率が低下してしまいます。
そのため、最低でも200万円の資本金を準備しておくのが良いでしょう。
3.資本金を活用して、借入(融資)をするか、出資を受けるか
資本金の必要額が決まれば、次は資金調達になります。資金調達には主に2つの方法があります。
3-1.借入(融資)
資金調達の一つ目の方法は、借入・融資を受けるという方法です。
まずは簡単にこの2つに違いについて整理します。
- 借入=借り手から見た言い方
- 融資=貸し手から見た言い方
借入とは、金銭や物品を借りることを意味します。しかし一般的には、個人や企業が金融機関から金銭を借りることを指します。
また、借入は負債となるので自己資本ではなく他人資本に含まれます。借入・融資には確実な返済が求められるので返済が可能な額をきちんと計算しておかなければ、逆に会社にとって足を引っ張る存在にもなってしまいます。
それに加えて、基本的に借りたお金は資本金に含むことはできません。DES(デット・エクイティ・スワップ)といった借入金を株式化し資本金にするという例外的な方法もありますが、金融機関などから借りたお金は会計上では借入金として運用することになります。
金融機関から資金を借り入れる場合には、信用金庫→地方銀行→メガバンクの順に借入できる難易度が上がります。会社設立から間もない会社に対してメガバンクが資金を提供してくれるのは難しいです。
こういった手続きには専門的な知識が求められるので、専門家などに相談する必要があります。
3-2.出資
出資とは、事業の成功・成長を期待した投資家などがお金を出すことです。借入(融資)と異なり、一般的には返さなくてよい資金になります。
ベンチャーキャピタルや投資家から集まった資金は、原則的には自由に使うことができます。しかし、その際には経営権(株式)を出資先に渡す必要があります。
つまり出資をした投資家には、会社の方針を決める権利(議決権)が発生することになるのです。
自分の会社であっても、自己の出資額が他人の出資額を下回ってしまうと、実質会社の議決権を握っているのは出資額の多い投資家ということになってしまうのです。出資の割合には気をつけなければなりません。
その反面、投資家は会社の成長を願っているわけですから、投資家からの情報によって会社の事業が大きく成長するということも考えられます。出資を受けるメリットとデメリットをきちんと考えて上手に利用することが会社の成長を左右します。
資本金を決める時の3つのポイント
それでは、実際に資本金をどのくらい準備すべきか考える際のポイントをお伝えしていきます。
1.起業資金(初期費用・運転費用)
会社設立当初には最低限必要な資金として、初期費用と運転費用の大きく2つの資金が必要になってきます。
まず初期費用には、会社設立当初の環境を整えるための費用が含まれます。
一方、運転資金(ランニングコスト)とは、会社設立後に事業や設備・建物を維持するために必要となる費用です。会社が設立後すぐに利益が出る保証はありませんが、利益が出ていない間にも会社の運営には多くのお金が必要になってきます。その期間を乗り越えるために必ず必要になってくる費用なのです。
ではそれぞれ何に費用がどれぐらいかかるのか具体的に見ていきたいと思います。
1-1.初期費用
初期費用には、株式会社設立の際にかかる登録関連費用、仕事場として必要になる事務所費用、パソコン・電話といった電子機器関連、そのほかにも設備を整えるのに必要な備品代、会社を知ってもらうための広告費などにかかる費用が含まれます。
業種によって初期に集める機材などが異なるので一概には言えませんが、登録関連費用が約20万円かかり、そのほかを考えると最低でも100万円は必要になります。
店舗(カフェ等)を構えるなど、機材準備に多くの費用がかかる会社を設立するとなれば、最低でも500万円程度の資金がなければ難しいのが現実です。
1-2.運転費用
初期費用に加えて必要になるのが運転費用です。運転費用には人件費、家賃、光熱費、通信費といった固定費に加え、在庫を抱えたり食材を仕入れたりするのであれば、これらにかかる費用も出てきます。
これらの費用を一度計算し、3ヶ月〜6ヶ月分の運転費用を資金として持っておく必要があります。
2.社会的・対外的な信用
先程も言ったように会社の資本金は会社に信用を生み出してくれます。信用を得られる対象としては主に金融機関・クライアントの2つがあります。
2-1.金融機関からの信用
資本金は会社の信用力です。
そのため、銀行の口座を開設する際に資本金額が低ければ、メガバンクなどの口座開設は難しくなります。逆に資本金が十分であれば口座開設ができ、さらに会社の信用力を上げることに繋がります。
また、資本金がなければ事業拡大に資金が必要となったとしても、借入・融資を受けられない可能性もあります。このように資本金は金融機関からの信用に大きく関係してきます。
2-2.クライアントからの信用
もう1つはクライアントからの信用です。
あなたの会社が考えた事業アイデアが素晴らしいものであり、大手企業と仕事をするビジネスチャンスが生まれたとします。しかし、大手企業や歴史の長い企業は、会社の資本金をビジネスを組む判断基準にすることがあります。事業プラン自体には問題が無いのに、資本金に問題がありせっかくのチャンスを無駄にしてしまうことも少なくありません。
このようにクライアントからの信用を得るためにも、資本金の設定は考えなければいけません。
3.税金面での対策(節税)
会社に課される税金である法人税や消費税等には大きく分けて3つの壁があります。
- 1000万円の壁
- 3000万円の壁
- 1億円の壁
それぞれについて説明していきます。
3-1.〜1000万円の壁〜
節税に関する1つ目の壁は1000万円の壁になります。
まず1000万円未満で会社を設立したとなれば、最大で2年間は消費税を払わなくて良いのです。
条件は下記の通りです。
- 課税売上高が会社の設立から6ヶ月の間で1000万円を超えない場合
- 従業員に支払った給与の合計が1000万円以下の場合
設立当初の会社はこのような条件を上手く利用して節税をするのがオススメとなります。
3-2.〜3000万円の壁〜
2つ目の壁は3000万円の壁になります。
会社の資本金が3000万円以下の場合は「特定中小企業者等」に会社が該当することになります。
それにより、「中小企業者等の機械等の特別控除」という節税が可能になります。
資本金3000万円近くの会社となればトラックなどの機械を扱う会社も多いでしょう。その際に3.5t以上のトラックなどの支払いにかかる税金を抑えることが可能となります。
例)1500万円のトラックを購入
1500万円×7%(購入価格に対する税率)=105万円
このように本来支払うべき法人税を負担しなくてよくなるというメリットがあります。
3-3.〜1億円の壁〜
最後は1億円の壁になります。
この壁は会社にとって大きな分岐ポイントとなります。資本金が1億以下の会社は、1億超えの会社に比べて多くの特例を受けることが可能になります。
簡単にまとめてみます。
- 800万円以下の所得に対して、法人税率の軽減措置が適用される。
- 繰越欠損金が100%認められる。
*繰越欠損金=赤字が出た場合に次の年に繰り越せる赤字のこと。 - 800万円以下の交際費を全額経費に含められる。
- 特定同族会社の留保金課税の不適用。
- 機械等の特別償却。
- 試験研究費の税額控徐。
簡単にいくつか紹介しましたが、この他にも、資本金1億位以下の会社に適応される特例は多く存在します。
このような特例によって節税できる税は多く存在します。そしてこれらの額の合計を考えれば大きな負担を1つ無くすことが可能になります。
ここまで節税について書いてきましたが、会社として上手く節税することは非常に重要であることが分かります。
しかし節税に関することは法律が大きく関わってくるので、複雑であります。そのため、この分野に関しては専門家への相談が必要となってくるでしょう。
まとめ
現在、資本金が1円でも起業をすることは可能です。
しかしここまで解説した通り、資本金は会社がどれだけ運転できるかという体力を示すものだけでなく、会社の信用も示すものにもなります。
そのため、平均額である200万〜300万円の資本金は用意しておくべきでしょう。
そして借入・融資を受けたり上手く節税をするとなると当然専門的な知識が必要になります。
ですので、起業時には専門家である税理士に相談することをオススメします。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。