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起業したいと考えている方の中には、手続きのまとめサイトをみて、自分でやろうかと考えている方も多いはず。
確かに会社設立をご自分ですることは、できない事ではありません。
ですが、本当に難しいのは、設立後の手続きなのです。
今回は、設立後の手続きにどのようなものが待っているのかをご紹介しながら、本当に自分でできるのか、それとも専門家に任せた方がいいのかを考えていければと思います。
自分ですると、めんどくさいのは会社設立後
意外かもしれませんが、会社設立手続きの中でめんどくさいのは会社設立後の手続きなのです。
会社設立の手続きは、法務局にいくだけで終わりだと思っていませんか。
多くの人が、会社設立までの流れをまとめサイトで見て、簡単だと思われていると感じます。
たしかに、会社設立までは必要な書類を集めて、定款を作成し公証役場にいくといった流れなのです。
しかし、会社設立後は、税務署、年金事務所、労働基準監督署、公共職業安定所など各種行政事務所で手続きしないといけません。
そのため法務だけではなく、税務や幅広い知識が必要になり、なかなか個人で対応するのは難しくなるのです。
会社設立後の手続き 社会保険編
まずは社会保険に関する手続きを見ていきましょう。
①年金事務所
会社設立後は、社会保険の加入が義務となっています。
そのため、会社の所在地を管轄する年金事務所での手続きが必要となります。
届出書類は、日本年金機構のHPからダウンロードできます。
提出方法は、3種類です。
- 各都道府県にある事務センターもしくは年金事務所に郵送
- 年金事務所へ持参
- 電子申請可能なものは電子申請
です。
時間があれば、持参して問い合わせしたほうが確実だと考えます。
また、以下でご紹介する届出は期限が非常にタイトになっているため、注意しましょう。
会社設立までに記載できるものは、事前に準備しておくことをおすすめします。
1)健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
新しく従業員を採用した場合に必要な書類になります。
要件が発生してから5日以内に必要になります。
- 関連書類はこちら
2)健康保険 被扶養者(異動)届
従業員に被扶養者がいる場合などに必要な書類です。
設立会社に従業員がおり、家族も扶養する場合は上記と一緒に届出する必要があります。
- 関連書類はこちら
②労働基準監督署
従業員がいる場合は労災保険の手続きも必要になります。
労災保険を申請するためには会社所在地を管轄する労働基準監督署に届出を行います。
提出方法としては、年金事務所と同じで郵送・窓口・電子申請のいずれかです。
届出書類は、電子政府の総合窓口e-Govに記載されています。
労災保険は、従業員が一人でもいる場合は申請が必要です。
役員は対象外です。
保険料は全額事業主が負担します。
下記2つは社労士の代行申請が可能です。
1)労働保険 保険関係成立届
雇用形態に関わらず一人でも従業員を雇ったら必要になります。
従業員と雇用関係を成立した日から10日以内に届出が必要です。
( 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第4条の2第1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則第4条)
2)労働保険 概算保険料申告書
概算保険料、増加概算保険料、確定保険料の申告・納付をするためのものです。
従業員と雇用関係を成立した日から50日以内に届出が必要です。
(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第15条・第15条の2・第16条・第19条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則第24条第3項・第25条・第33条・第38条、厚生労働省関係石綿による健康被害救済に関する法律施行規則第2条の2第2項)
③公共職業安定所
従業員を雇用している場合は、雇用保険の申請を公共職業安定所(ハローワーク)に申請が必要です。
申請方法は、窓口もしくは電子申請になります。
この雇用保険の従業員の定義は、31日以上雇用見込みあり、1週間の所定労働時間が20時間以上あるものです。
保険料負担は、従業員と事業主との折半になります。
なお、労災保険同様、役員は対象外です。
雇用保険 適用事業所設置届
事業所を設置した場合に提出するもので、設置してから10日以内に提出します。
(雇用保険法施行規則第141条)
雇用保険 被保険者資格取得届
従業員(雇用形態関わらず)で上記の定義を満たすものがいる場合に、雇用保険に加入するための届出です。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届については、要件を満たした日から5日以内に届出が必要です。
会社設立後の手続き 税務編
税務署には、様々な届出が必要になります。
今回は会社設立の際に必要であろう最低限のものをご紹介します。
あとで紹介する評価方法に関しては、個人ではどれを選択すればいいかわからない場合があります。
ですが、1期目の確定申告までに申請が必要なものもあるため、評価方法については税理士にご相談いただくことをお勧めします。
①税務署
1)法人設立届出書
会社設立を税務署に知らせるための届出になります。
納税地の所轄税務署長に、会社設立から2か月以内に申請が必要になります。
e-taxでも申請可能です。
添付書類は、定款のコピー1部(資本金1億円以上の内国普通法人は2部)・株主名簿・設立時の貸借対照表が必要になります。
2)青色申請の承認申告書
法人税の申告で青色申告を選択するための書類になります。
提出しない場合は白色申告となります。
青色申告は手続き面で煩わしい部分もありますが、ぜひおすすめしたいです。
節税対策にもなるからです。
3)給与支払事務所等の開設届出書
この届出は、役員も当てはまるため、従業員がいない場合も届出は必須になります。
開業から1か月以内に提出が必要です。
4)源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
これは非常に便利ですので、従業員が10人未満であればぜひ申請を行っていただきたいと思います。
源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が期限です。
しかしながらこの申請を事前に行うと、事業主側が、給与や退職手当、税理士等の報酬・料金について源泉徴収をした税金について、半年に1回の納付にまとめることができるのです。
この特例は、特例を受けたい月の前月までに申請する必要があります。
- 手続きに関して詳しくはこちら
5)棚卸資産の評価方法の届出書
棚卸資産についての評価方法を選択できる届出です。
何もしなければ最終仕入原価法が適用されます。
申請は、設立1期目の確定申告までに行う必要があります。
- 手続きに関して詳しくはこちら
6)減価償却資産の償却方法の届出書
減価償却資産の償却方法について選択できる届出です。
何もしなれければ定率法が適用されます。
申請は、設立1期目の確定申告までに行う必要があります。
- 手続きに関して詳しくはこちら
②都道府県・市町村
法人設立届出書を提出する必要があります。
会社設立後の手続き その他番外編
会社設立後の手続きの中で、社会保険や税務署など行政に関する手続きをご紹介しました。
これ以降は行政手続きではないですが、その他必要になってくる手続きをご紹介します。
①印鑑証明書
法務局の窓口で提示する必要があるのが、印鑑カードです。
会社設立後に印鑑カードが出来ており、法務局で印鑑証明書を取得することができます。
後に述べる法人口座開設など手続きになにかと必要になります。
法務局に行った際には5~8通取得しておくとよいでしょう。
電子環境を整えれば、登記ねっとから印鑑証明書と登記事項証明書を取得することも可能です。
②金融機関 法人口座
会社設立後、売上が発生すると金融機関の法人口座が必要になります。
一般的に、登記事項証明書・定款(もしくは規約)・代表取締役の印鑑証明書・会社実印・銀行印が必要になります。
金融機関よっては別途書類が必要な場合もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
法人口座開設に際し、開設を断られる場合があります。
近年、マネーロンダリングのこともあり開設が一層厳しくなっています。
例えば、バーチャルオフィスでの事業や、資本金の金額が低い、事業の実態が見受けられない等といった理由ではじかれます。
もちろん、ネットバンクでの口座開設はしやすいのですが、メインバンクとしてはどうかという問題もあります。
ネットバンクはいくつかのうちの一つの口座とし、メインバンクは店舗型の金融機関での開設をお勧めします。
困った時にすぐに質問・相談に行けるのはやはり店舗型です。
手数料や立地、使いやすさから選ぶとよいでしょう。
③資金集め
会社設立は資本金1円から設立はできますが、一般的に会社設立前から運転資金の準備をされている方多いです。
最近では創業支援の融資が多くあり、会社設立後に借入だけでなく創業融資を受けやすくなりました。
例えば、日本政策金融公庫がその一つではないでしょうか。
融資対象者としては、新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方です。
ですが、融資に当たっては審査があり、その審査の中では事業計画書や今後の資金繰りについても説明しなければなりません。
ですので、会社設立後も継続して資金調達が必要ですが、創業融資を得やすくするための事業計画書は会社設立前から準備しておくことをおすすめします。
会社設立後は先も述べたように、税務署への申請も数多いため、設立段階から融資も含めて税理士など専門家に支援を求めるのも一つ方法だと考えます。
関連記事の「資金調達を専門家に依頼するメリット・デメリットとは?」をご覧ください。
まとめ
会社設立を一人ですることはできない事はないですが、やはり法務・税務を一から調べながらするのはとても時間がかかります。
また、時間がかかる分、経営者自身の営業ができないため、費用対効果を考えれば適切ではない場合もあります。
また、設立後に円滑に運営するために、資金繰りを考える必要があります。
もちろん、自身で創業融資を用意することができれば一番いいのですが、なかなか難しいです。
そのため、設立当初から創業融資などを受け入れる準備もするとよいでしょう。
先も述べたように、日本政策金融公庫等の創業融資制度を利用することをおすすめします。
会社設立後にも行政事務所での手続きで、税理士等の専門家に相談することもあるかと思います。
ぜひ一緒に資金調達についても相談することをお勧めします。
会社設立手続きもそうですが、自分でできること、人に任せた方がいいところを分けて考えるとよいでしょう。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。