個人事業主として開業するメリット・デメリット、開業の手順について

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独立には、個人事業主として開業するパターンと法人(会社)を設立するパターンがあります。

では、法人ではなく個人事業主として開業することのメリットやデメリットにはどのような項目があるのでしょうか?この記事では、

  • 個人事業主として開業するメリット・デメリット
  • 個人事業主か法人か?選び方の2つのポイント
  • 個人事業主として開業するまでの手順
  • 個人事業主が開業届を出すメリットと作成・提出時のポイント

をご紹介します。これから起業、独立を検討されている方は、ぜひ最後までお読み下さい。

個人事業主として開業するメリット・デメリット

個人事業主として開業するメリット

個人事業主として開業する主なメリットは以下の通りです。

  • 開業手続きが法人より簡単にできる
  • 開業時にコストがかからない
  • 帳簿付け・確定申告が法人より簡単にできる

一言でいってしまえば、さまざまな手続きが法人よりも簡単です。それぞれ、詳しくみていきましょう。

開業手続きが法人より簡単にできる

個人事業主は、会社設立の場合と比べて開業や廃業の手続きが簡単です。

開業する場合は、税務署に届出するだけで構いません。会社設立の際に必要な、定款の作成や登記は不要です。

また、廃業の際も税務署に届出をすればよく、仮に事業がうまくいかなくてもすぐに辞められます。

開業時にコストがかからない

個人事業主は、開業時の手続きに費用がかかりません。

また、社会保険に加入する義務もないため、開業時のコストを抑えることができます。

帳簿付け・確定申告が法人より簡単にできる

経理や決算が簡単という点も、個人事業主のメリットと言えるでしょう。

会計処理は会社設立の場合よりも簡単に行うことができますし、確定申告は1年分の収支を計算して所得税額を算出して納付すれば完了です。会社設立の場合と比べて、日々の取引を帳簿につけていれば簡単に確定申告もできます。

なお、確定申告は、経費や控除の面でメリットを受けられる「青色申告」を選ぶようにしましょう。

【関連】【税理士が解説】確定申告とは?対象者や必要書類、控除、青色・白色の違い

個人事業主として開業するデメリット

個人事業主として開業する主なデメリットは以下の通りです。

  • 経費計上や控除できる範囲が法人より狭い
  • 社会的な信頼が法人より低い
  • 赤字繰り越しが3年間しかできない

それぞれ詳しくみていきましょう。

経費計上や控除できる範囲が法人より狭い

会社設立の場合と比べて、個人事業主は経費として計上できる範囲が狭くなっています。

また、控除についても、法人の役員報酬のように給与として控除できません。

社会的な信頼が法人より低い

個人事業主は、法人と比べて社会的な信頼度が低い傾向にあります。

そのため、開業してすぐに大型の資金調達をしたい場合は向いていません。

赤字繰り越しが3年間しかできない

個人事業主の場合には、青色申告をしている場合であっても3年間までしか認められません。

一方、法人は赤字の繰り越しが9年間認められています。

個人事業主か法人か?選び方の2つのポイント

開業する際、個人事業主と法人どちらにしようか迷ったときは、以下の2つのポイントを参考にしてみてください。

年間事業所得が500万円以上

個人事業主か法人か判断するひとつの目安は、年間事業所得が500万を上回るかどうかです。

法人の法人税率は決まっています。一方、個人事業主は経費として認められるものが少なく、事業所得が大きい場合でもなかなか節税はできません。

役員報酬が経費として認められるなど、法人による節税のメリットが大きくなるひとつの目安が、年間事業所得500万円です。

年間売上が1,000万円以上

個人事業主は、売上が1,000万を越えると消費税の課税事業者となり消費税を納税する義務が生じます

法人の場合は、2期前の売上が1,000万以上あると消費税の課税事業者になります。

このように、法人は1期目と2期目は消費税の納税義務が生じません。開業当初から年間売上が1,000万円を超える見込みがあれば、法人として事業をスタートさせた方がいいでしょう。

個人事業主が開業するまでの手順

それでは、個人事業主が開業するまでの流れをステップごとに解説していきます。

1.開業費の準備

開業するためには、まず設備投資などに必要な開業費を準備しましょう。

一般的には、3~6ヶ月は利益がなくても事業を維持できるだけの資金が必要と言われています。個人事業主の場合、開業費は個人の貯金などから用意する場合がほとんどです。

開業費の融資を受ける場合は、新規開業の事業主に無担保・無保証人で融資してくれる、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を利用する人が多くなっています。

【関連】
開業費とは?開業費の対象となる範囲、開業日の決め方、税務上の扱いなどを徹底解説
新創業融資制度とは?制度の概要や利用するための3つの要件、審査通過のコツをチェック

2.退職手続き

現在会社勤めをしていて独立する場合は、開業が決まったら会社の退職手続きを行います。

ただし、退職届を提出して終了ではなく、個人事業主として開業するための保険・年金手続きをしなければいけません。

国民健康保険もしくは任意継続の手続き

個人事業主は社会保険ではなく、国民健康保険に加入します。社会保険から脱退の手続きは勤め先が行いますが、国民健康保険に加入する手続きは退職日から14日以内に自分で行わなければなりません

また、退職後も、2年間は国民健康保険ではなく会社の健康保険に加入し続けることができる制度を「任意継続」といいます。

ただし、会社は退職者の保険料は負担しないため、任意継続を行うと保険料の支払い額が2倍になります。

国民年金への加入

会社勤めから個人事業主になると、年金も厚生年金から国民年金に変わります。

厚生年金の資格喪失手続きは会社側が行いますが、国民年金への加入手続きは自分で行いましょう。

また、20才以上扶養家族がいる場合は家族も国民年金への加入手続きが必要です。

3.開業届を提出する

最後に、いよいよ「開業届」を提出します。

開業届には屋号や事業所の住所を記載する必要があるため、先に決めておきましょう。

開業届の受領には審査などがないため、書類を1枚提出するだけですぐに個人事業主として事業をスタートできます。確定申告を青色申告で行いたい場合、開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」も提出しておくとスムーズです。

個人事業主が開業届を出すメリットと作成・提出時のポイント

実は、個人事業主は開業届の提出が必須ではありません

開業届を提出しなくても事業はでき、実際提出していない人もいます。しかし、提出しておくとさまざまなメリットがあります

開業届の作成・提出時のポイントと合わせて解説していきます。

【関連】個人事業主の開業届とは?届出は必須?【入手方法と申請手続きまでの流れ】

開業届を出すメリット

青色申告ができる

確定申告で青色申告ができるのは、開業届と青色申告承認申請書を提出している個人事業主のみです。

青色申告承認申請書を提出していない個人事業主は、他の個人と同じく白色申告を行います。

青色申告事業者になると、最大65万円の控除を受けられるなどメリットがたくさんあります。そのため、開業届のみを提出する個人事業主は少なく「青色申告をしたいから青色申告承認申請書と開業届をセットで出す」という人が大多数です。

事業所得として申告できる可能性がある

開業届を提出すると、事業で得た所得を確定申告で事業所得として申告できます。

事業所得が認められると、次の項目で解説する損益通算が行えるようになり、特に副業収入を得ている人は節税に役立ちます。

損益通算を行える

損益通算とは、給与所得、事業所得、山林所得、不動産所得、譲渡所得の5種類の所得を足し引きして税金の計算ができる制度です。

例えば、給与所得を300万円得ていて、事業所得で100万円の損失が出た場合、所得を200万円とすることができます。

開業届を出していない場合、副業の収入は雑収入となるので損益通算ができず、結果的に納税額が多くなる可能性があるのです。

開業届の作成・提出時のポイント

開業届の書き方と提出先

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。

まず、開業時には書類の一番上に書いてある正式名称の「開業」部分に丸をつけましょう。記入項目と内容は以下の通りです。

  • 納税地、上記以外の住所地・事業所等…自宅または事業所の住所
  • 職業…開業する業種
  • 屋号…店名などの屋号(必要ない場合は空欄でも問題ありません)
  • 事業の概要…具体的な事業内容

その他、家族を従業員として雇っている場合には、「青色申告事業専従者給与に関する届出書」を提出しておくと、専従者給与として経費扱いにすることができます。

また、青色申告承認申請書を一緒に提出する場合には、「開業・廃業に伴う届出書の有無」の欄で「有」に忘れずに丸をつけましょう。

開業届の提出先は、書類に記入した「納税地」を管轄している税務署です。税務署の窓口か郵送、もしくは電子申請で提出することができます。

開業届の提出期限

開業届の提出期限は、開業日から1ヶ月以内です。

この期限を過ぎても特に罰則はありませんが、開業初年から青色申告をしたい場合は提出のタイミングに注意が必要です。

というのも、その年の開業日から2ヶ月以内に青色申告承認申請書が受領されていないと、青色申告ができなくなってしまうからです。

また、退職後に失業保険を受給している方は、開業届を提出すると失業保険が支払われなくなるため注意してください。

まとめ

個人事業主として開業するために必要な手続きは、「開業届」の提出のみです。

しかも、合わせて「青色申告承認申請書」を提出すれば、税制上のメリットが多い青色申告ができるようになります。

なお、ハートランド税理士法人では、会社設立を代行手数料で0円サポートしております。開業、会社設立について何かわからないことがあれば、お気軽にご相談ください。

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