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個人事業主として事業を始める際の手続きのひとつに、「開業届」の提出があります。
開業届は正式名称「個人事業の開業・廃業等届出書」と言い、提出することによって青色申告ができるようになるなど、さまざまなメリットがあります。
ただし、届出は義務ではなく、未提出でも罰せられることはありません。
この記事では個人事業主として起業を予定されている方向けに、
- 開業届とは
- 開業届を提出する前に確認すべきこと
- 開業届を提出するメリットとデメリット
- 開業届の入手方法と届出の流れ
- 開業届提出と同時にやっておくべきこと
- 個人事業主が開業届を提出しなくても罰則はない
などの項目についてご紹介いたします。
開業届とは
個人事業主として開業した場合、まず税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出しなければなりません。これがいわゆる「開業届」と一般的に呼ばれているものです。
開業届は、個人事業主として事業を開始した日から1か月以内に所轄税務署へ提出するようにしましょう。
なお、副業の場合でも、年間収入が20万円以上の場合は確定申告が必要です。この場合でも、個人事業主として届出をすると、青色申告ができるようになります。
開業届を提出する前に確認すべきこと
持ち家ではなく賃貸で借りている自宅を住所に利用する場合、どのようなことを確認しておくべきなのでしょうか?
まずは、この点について解説します。
自宅が賃貸物件の場合
自宅が賃貸物件かつ事務所利用を禁止していない場合は、開業届を提出するにあたって特に問題はありません。税務上も賃貸物件で事業は出来ないという決まりはありませんし、不動産会社の観点から見ても問題はありません。
しかし、その事務所に大きな看板を掲げたり何か手を加えたりする場合は、税務の届出書に関係なく、不動産の賃貸契約上大家さんに確認が必要なケースがあります。
自宅が申請不可の場合
賃貸契約書自体に事務所としての利用を禁止している場合は、もちろん申請が不可となります。この場合、自宅での申請が不可なので、違う場所で開業届を提出する必要が出てきます。
最近であれば開業届に使用できる個人事業主向けレンタルオフィスも増えてきたので、そういったところをうまく活用して開業届を提出しましょう。
個人事業主が開業届を提出するメリットとデメリット
それでは、開業届を提出することで受けられるメリット、そして提出したがゆえに生じるデメリットについて解説いたします。
4つのメリット
青色申告ができる
最大のメリットは、確定申告の際に青色申告を利用して最高65万円の控除を受けられる点です。
厳密にいうと、開業届と同時に「所得税の青色申告申請書」を提出することで、青色申告ができるようになります。
青色申告は白色申告に比べ税制上のメリットが多く、収入額によっては大幅に節税することが可能です。帳簿付けが複雑になるなどのデメリットもありますが、所得330万円が青色申告の方が得になるボーダーラインと言われています。
屋号・口座を持てる
開業届を提出すると、屋号や屋号のついた口座を持てます。
屋号とは、店名や事業者名など、仕事上で使う名前のことです。屋号を持つことで気持ちが引き締まるのはもちろん、屋号があったほうが顧客や取引先の信用度も高くなります。銀行口座の名義にも屋号がついていることで、振り込み手続きの際により安心してもらえるでしょう。
退職金制度が利用できる
節税対策の一環として小規模企業共済の退職金制度を利用することもできます。
クレジットカードの審査が通りやすくなる
一般的に、会社という後ろ盾がある会社員より、個人事業主・フリーランスはクレジットカードの審査が通りにくい傾向にあります。
開業届を出すことで「事業をしている」という信頼が増し、クレジットカードの審査に通りやすくなります。
2つのデメリット
確定申告しなければ申告漏れを指摘される
開業届を提出しているにもかかわらず確定申告をしなければ、税務署より申告漏れを指摘されます。
仮にそれが意図的ではなかったとしても、そう判断されて無申告ということで罰せられるケースもあります。
失業手当がもらえなくなる
それまで勤めていた会社を辞めて個人事業主になる場合、開業届を提出すると失業手当が打ち切られます。
失業手当は仕事がない人に支給されるものであり、「個人事業主として仕事を始める」と届出をした人に支給されないのは当然です。失業手当を満期まで受け取りたい場合は、失業手当の需給が済んでから開業届を提出するようにしましょう。
個人事業主のための開業届の入手方法と届出の流れ
ここからは、開業届を提出する具体的な手順について解説していきます。
1.国税庁のホームページまたは税務署で開業届を入手する
国税庁のホームページから「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」という手続で紹介されている提出・控用をダウンロードします。
書き方のPDFも一緒に掲載されているため、あわせてダウンロードしておくと便利です。
なお、開業届の提出そのものに費用はかかりません。作成費用も不要ですし、税務署へ問合せをしても費用は発生しません。
【参考】
個人事業の開業・廃業等届出書(PDF)
2.開業届を記入する(開業届の書き方)
- 提出先
…基本的に住民票がある住所の所轄税務署になります。 - 納税地
…一部特例もありますが、自宅を事務所にしている場合は住民票の住所になります。 - 開業届の提出日
…特に決まりはありません。提出日を開業日として日付を記入します。 - 屋号
…必須ではありませんが、先にも述べたように屋号がある方が事業用口座を作れるなどのメリットがあります。屋号を持っている場合はここで記載します。 - 提出の区分
…新規で開業する場合は開業に○をします。所得の種類は事業所得、不動産所得などを記載します。基本的に賃貸料収入を得るような仕事でなければ、事業所得と認識して問題はないでしょう。
3.開業から1ヶ月以内に税務署へ提出する
提出期限は事業開始の事実があった日から1ヶ月以内です。もし提出期限が土曜日日曜日、祝祭日と重なるようであれば、翌営業日となります。
開業届の提出先は、納税地を所轄する税務署長です。税務署長といっても直接会うわけではなく、税務署の受付に提出するだけで済みます。
個人事業主が開業届を提出と同時にやっておくべきこと
開業届を出せば、それで個人事業主としてスタートできるという訳ではありません。開業届の提出と一緒にやっておいた方が良いことを紹介いたします。
お店の屋号(名前)を決める
屋号を決めておけば、専用口座をつくることができます。
個人事業主とはいえ、個人のお金と事業のお金は分けて管理しておかなければ、万が一税務調査が入った際に誤解を招き、結果的に課税される恐れがあります。
また、どの程度のお金を事業資金として運用できるのかを把握するのにも便利です。
「青色申告承認申請書」を提出する
青色申告で様々な税務の控除を受けたり特典を受けたりするのであれば、青色申告承認申請書も一緒に提出しておくのがベストです。
特に個人事業主の場合は、俗に言う白色申告と青色申告では、税額控除に大きな差が生まれます。青色申告のメリットを享受するためにも、いち早く提出しておきましょう。
「源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書」を提出する
「源泉所得税の納期の特例」とは、毎月納付している源泉所得税を年2回の納付にできる制度です。
例えば、事業を始めたばかりで源泉所得税が発生しないと言った場合であれば、納期の特例を活用して7月と翌年1月の2回、半年分をまとめて納める方法の方が良いでしょう。
ただし、個人事業主でも事業が軌道に乗り従業員を雇ってそれなりに所得税を納めるようになれば、毎月納付の方が納税資金を均等化できるので納めやすくなるといったこともあります。
なお、この特例は、給与を支払っている人数が常時10人未満である場合で、もし10人以上になった場合は取下げが必要です。
また、納期特例で使用する源泉所得税の納付書と毎月納付の納付書には違いがあるので、同じものは使用できないと認識しておく必要があります。
「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する
個人事業主であっても、国内で給与の支払いを行う事務所を開設した場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要です。
これは給与の支払者が提出しなければいけない届出書で、一度提出すれば廃業するまで取下げる必要はありません。また、従業員が増えてもその人数に左右されることはありません。
個人事業主が開業届を出さなくても罰則はない
なお、開業届の提出は義務ではありません。そのため、提出していないからといって罰則が課せられることはありません。
しかし、補助金や融資、給付金などの申請の際に提出しなければいけない書類の中には開業届が含まれている可能性があります。そうした場面でも使用できますので、個人事業主として創業するなら届出をしておく方が後々受けられるメリットは大きいといえます。
まとめ
個人事業主の開業届の提出は義務ではありません。
しかし、青色申告や各種手続きには必要となることもあるため、個人事業主として開業した方は、まず税務署に届出しておくことをオススメします。
監修:大久保 明信(おおくぼ あきのぶ)
・ハートランド税理士法人 代表社員(近畿税理士会所属、税理士番号:127217)
・ハートランドグループ代表取締役社長
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)でハートランド会計事務所(現:ハートランド税理士法人)を開業。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2024年には顧問先数1,200件を突破。法人の税務顧問を中心に、国税局の複雑な税務調査への対応や経営へのコンサルティング等、顧問先のトータルサポートに尽力中。